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研究者総覧「情報知」

社会システム情報学専攻

氏 名
榎堀 優 (えのきぼり ゆう)
講座等
知識社会システム論講座
職 名
助教
学 位
博士(工学)
研究分野
ユビキタス / ウェアラブル / 技能解析・習得・指導支援 / 医療・看護支援
榎堀 優

研究内容

日常・生活・活動に融和する情報システムの研究

[研究の概要]
日常の様々なものにセンサや計算能力を付加し、影ながら人の活動をサポートするシステムを研究している。コンピュータの利用が当たり前となり、日常生活中の至る所にセンサや計算資源が存在し、様々な観点から人をサポートしてくれる状況となってきた。特にスマートフォンの普及後からその傾向が顕著となり、日常的に移動ログを取得して、良く行くスポットや行動傾向を分析したり、自動的に移動経路情報を提示したりするサービスなどが2015年時点で既に展開されている。また、腕時計型活動量計や設置型睡眠計などのセンサと連携したヘルスケアサービスなども普及している。本研究の目的は,これをより推し進め、衣類や靴、椅子や机、部屋や家にもセンサや計算機資源を付加し、日常・生活・活動に融和しながら人の活動をサポートするシステムを構築することである。


[研究テーマ]
日常・生活・活動に融和しながら人の活動をサポートするシステムは、モバイル型、敷設型、ウェアラブル型など様々である。ここでは二つの研究について紹介する。


(1) 布センサを用いた医療・看護支援
布センサは柔らかく、衣類やベッドシーツへ等へ組み込んだ人体に近い場所でのセンシングに適する。また、我々の布センサは織り構造によってセンサ機能を構築しているため、織るだけセンサが構築され、通常の布と同じ方法で大規模化・量産が可能である。そのため、医療や看護など、衛生面から使い捨てが必要となる分野での利用にも好適である。


以下の図は、肺の動作を継続的に計測するSprioVestである。伸縮を検知できる布センサを利用している。日常的な肺動作の計測から、各種の肺疾患の初期症状や兆候の検知を目指している。例えば日常の歩行中に肺が少しずつ膨らんでいくことを検知できれば、COPDなどの閉塞性疾患の兆候が発見でき、早期治療に繋がる可能性がある。現在はチョッキ型だが、将来的には下着などの形状として、日常的・自動的・継続的に肺動作を計測できるようにしたい。

伸縮布センサを利用したウェアラブルスパイロメータ (SpiroVest)と出力値
図1: 伸縮布センサを利用したウェアラブルスパイロメータ (SpiroVest)と出力値
(赤: 医療用スパイロメータ, 青: SpiroVest出力値)

次の図は、体圧を計測できるベッドシーツであり、褥瘡予防と看護支援を研究している。褥瘡とは、人体の一部に高圧が継続的に掛かることで発生する症状である。発生させないことに重点が置かれ、寝たきりのご高齢者などの看護では、2時間に1回という頻回の体位変換などが実施されており、介護者の負担となっている。本システムで高圧部位が継続して発生したときだけ通知したり、個々人の体圧傾向を分析したりすることで、リアルタイム情報を用いた褥瘡の発生リスクの把握や発生条件の明確化、それを通じた介護者の負担軽減などの実現を目指す。

ベッドサイズ圧力布センサによる体圧分布計測
図2: ベッドサイズ圧力布センサによる体圧分布計測

(2) ウェアラブルセンサを用いた技能解析と技能指導支援
技能の習得は、反復練習や熟練者の指導に依存するところが多く、センサなどを用いて数値的に解析することで重点練習ポイントの明確化や、個々人の感性に頼っていた指導ポイントの導出が可能である。また、技能者が認識していない経験知を導出できれば、技能の理解が進み、習得速度・指導力の向上に繋がる。しかし、習得の試行錯誤や指導は散発的かつ継続的に実施されるため、長期間の計測でデータを収集する必要がある。そこで、ウェアラブルなセンサを用いた日常活動を妨げないシステムで長期的な計測を行い、経験知を導出する研究を行っている。


下記の図は、ウェアラブル加速度・角速度センサを用いて、ものづくり技能の一つであるヤスリがけを分析した結果である。高専生と熟練者から技能データを収集し、技能習熟度を表す特徴を抽出し、熟練指導者の主観評価値との関連性を明らかにした。右のグラフの通り、提案システムは熟練指導者の主観評価を高い精度で再現している。抽出した特徴には、熟練指導者が意識していなかった梃子構造での倒れ込み等が含まれていたにもかかわらず、主観評価の高い再現性を得たことは、熟練指導者が無意識に認識していた技能知の抽出に成功したと言える。

ウェアラブルセンサによる技能分析と熟練指導者の主観評価値再現
図3: ウェアラブルセンサによる技能分析と熟練指導者の主観評価値再現

経歴

  • 2010年 立命館大学大学院理工学研究科博士課程後期課程総合理工学専攻 修了, 同年, 同大学助手
  • 2011年 名古屋大学大学院情報科学研究科 研究員 
  • 2013年 名古屋大学大学院情報科学研究科 特任助教
  • 2015年 名古屋大学大学院情報科学研究科 助教, 現在に至る

所属学会

  • 情報処理学会
  • 人工知能学会
  • バイオメカニズム学会
  • 日本看護科学学会

主要論文・著書

  1. 榎堀優, 他, “上体周囲長計測による肺気量推定の姿勢変動補正”, バイオメカニズム学会, バイオメカニズム22, pp. 203-211 (2014)
  2. 榎堀優, 他, “ウェアラブルセンサを用いた熟練指導員のヤスリがけ技能主観評価値の再現”, 人工知能学会 学術論文誌28(4), pp 391-399 (2013)
  3. 榎堀優, 他, “PeerPool: DNS クエリを操作に用いた分散スマート環境間接続技術”, 情報処理学会論文誌 コンピューティングシステム 2(4), pp37-47 (2009)
  4. 榎堀優, 他, “動的に構成を変更可能な仮想スマート環境の構築”,情報処理学会論文誌49(1), pp58-68 (2008)