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研究者総覧「情報知」

メディア科学専攻

氏 名
光松 秀倫(みつまつ ひでみち)
講座等
認知情報論講座
職 名
助教
学 位
博士(心理学)
研究分野
実験心理学 / 環境知覚 / 意図的行為

研究内容

意図的行為と環境変化の因果性知覚に関する実験心理学的研究
■研究の概要■
人間は、意図、行為、環境の変化をどのように結びつけているのだろうか? 人間の意図的行為と環境知覚に関して、実験心理学的手法を用いて、情報処理的観点から解明していくこと目指している。環境は、時々刻々と変化する。環境の変化は、自分が変化させたものと、自分以外のものが変化させたものとに区別できる。人間は、環境の知覚、意図の生起、行為の遂行、環境変化の知覚(フィードバック)というサイクルを繰り返している。こうしたサイクルの中では、意図と行為の関係に対して、また、行為と環境の変化の関係に対して、それぞれ因果性の知覚がなされる。これまでの研究報告から、意図的行為によって、環境に働きかける場合と、意図を持たない場合とを比較すると、両者の間には、環境の見え方に違いが生じるという現象が発見されている。このことは、環境変化の表象には、視覚・聴覚などの感覚情報の他に、意図の情報が用いられることを示している。環境知覚は、情報処理心理学の研究対象であるのに対して、意図は、主観的な経験と捉えられている。本研究では、この現象を研究対象とすることで、意図を情報処理的観点から捉えることを試み、意図から環境変化の知覚に至までの情報処理過程を明らかにする。
■研究テーマ■
(1) 意図と行為の因果性知覚
人間の主観では、意図は、行為を産出させる原因であると感じられる。しかし、脳波を測定した研究によって、意図よりもさらに先んじて、脳波に変化が生じることが発見されている。これは、自分が自覚するよりも早く、行為の準備が開始されていることを示している。この知見は、行為が自分の意図によって制御されているというよりも、無自覚的に決定されているという仮説を支持しており、人間の主体性に関する問題を提起している。図は、意図と行為を別々の処理過程として捉えた仮説を示したものである。
(2) 行為と環境変化の因果性知覚
行為と環境の変化は、意図と行為の関係ほど、主観的因果関係は強くない。特に、見慣れない環境の変化には、自分の行為が引き起こしたのか、自分とは無関係に変化したのかがはっきりしない場合がある。人間のどのような行為に対して、環境のどのような変化が因果的に知覚されやすいのだろうか? 例えば、行為と環境変化のタイミングは、因果性知覚にどのように影響するのか、また、行為の運動方向と環境の変化の一致性は、因果性知覚に影響するのかなど、因果性知覚のための諸条件を特定していく必要がある。
(3) 環境変化の知覚における意図情報の寄与
行為を意図することは、その結果としての環境の変化を予測することでもある。予測と変化内容が一致する場合と、不一致の場合とで環境の見え方が異なる。両者の間で、知覚システムの処理に、どのような違いがあるのだろうか? 認知科学において、知覚は、心理学だけでなく、生理学のレベルでも最も研究の進んでいる分野の1つである。一方、意図は、非常に高次な概念であり、知覚に比べると、詳細な理解が得られていない。知覚と結びついた現象を扱うことで、意図という概念が情報処理的観点から何を意味しているのか、また、環境の変化をどの程度まで予測して、予測情報がどのような処理過程を経て知覚内容に影響するのかを明らかにしていく。
■今後の展開■
上述の各研究テーマに取り組み、行為の意図性を情報処理的に捉えた研究を展開する。本研究は、直接的には、健常者を研究対象としている。他方、臨床研究の分野において、統合失調症や幻肢など、行為の意図性の知覚に障害を生じる症例が報告されており、この問題が高い関心を集めている。これらの臨床分野に対しても、本研究が、健常者を用いた基礎的な知見を提供することができるように研究を進めていきたい。
意図と行為の見かけ上の因果関係

意図と行為の見かけ上の因果関係

経歴

  • 2002年東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻心理学専門分野博士後期課程単位満期退学。2004年博士(心理学)号取得
  • 2004年より名古屋大学大学院情報科学研究科メディア科学専攻認知情報論講座助手。現在に至る。

所属学会

  • 日本心理学会
  • 日本基礎心理学会
  • 日本認知科学会

主要論文・著書

  1. Mitsumatsu H, Yokosawa K. Efficient extrapolation of the view with a dynamic and predictive stimulus. Perception. 2003 ; 32 (8) : 969-83.
  2. Mitsumatsu H, Yokosawa K. How do the internal details of the object contribute to recognition? Perception. 2002 ; 31 (11) : 1289-98.
  3. 光松,横澤(2004).観察条件の変化における物体認知の不変性,心理学評論,47,2,241-256.