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研究者総覧「情報知」

複雑系科学専攻

氏 名
太田 元規(おおた もとのり)
講座等
生命情報論講座
職 名
教授
学 位
博士(理学)
研究分野
タンパク質の立体構造 / 複合体形成 / 相互作用ネットワーク

研究内容

構造バイオインフォマティクス・システムバイオロジー
■研究の概要
多くの種でゲノム配列が決定され、それらがコードしているタンパク質の立体構造が網羅的に決定される時代が到来した。一方でペタコンプロジェクトを代表とするハイパフォーマンスコンピューティングが振興されることで、これまでは不可能であった大きな系の計算も日常的に実行できる環境が整いつつある。生物学的データと計算機パワーが豊富な今は、コンピュータを利用した生物学:バイオインフォマティクスを推し進めるには絶好の機会である。私たちの研究室ではバイオインフォマティクスの中でもタンパク質の立体構造を中心としたデータベース解析や分子シミュレーション、少し専門的な言い方をすると“構造バイオインフォマティクス”の研究を行っている。遺伝情報はDNAに蓄積されるが、これがタンパク質に翻訳されて発現し、生命体になる。つまり生命を形成、維持している実体はタンパク質なのであるから、この物質を深く理解することが生命の分子論的な理解に直結する。これまでの研究では主に1つのタンパク質の構造、運動、機能を問題としていた。しかし、生命現象はタンパク質を含む分子集団が相互作用を通して離合集散し、実現しているのだから、これからはタンパク質群を対象とした研究にも挑んでいきたい。
■研究テーマ
(1) タンパク質の構造予測・新規設計・フォールディング
タンパク質は固有の立体構造をとることで機能を発揮するが、固有の立体構造はそのアミノ酸配列により一意に決定される。つまり、アミノ酸配列が与えられれば立体構造を知ることができる。しかしこの問題:タンパク質の立体構造予測問題はまだ解決していない。一方、新規機能を有するタンパク質を設計するためにはまず立体構造を設計しなくはならないが、どういうアミノ酸配列を用意すれば欲しい形を得ることができるのか、その設計手法も確立していない。タンパク質は理論上の見積もりに比べ非常に速く構造形成を行うことが知られているが、その形作り(フォールディング)のメカニズムも解明されていない。こういった問題に対し、データベースを利用した構造予測法や、経験的構造関数を使った配列設計、大規模フォールディングシミュレーションによる構造形成メカニズムの解析、などを行っている。
(2) タンパク質の複合体形成
同じ形のタンパク質でも単独で働くものもあれば、二量体、三量体といったように他のタンパク質と会合することで働くものもある。配列上、構造上のどのような違いが会合状態の変化をもたらすのかを統計的に調べている。また、タンパク質立体構造データベースに登録されている複合体を分類する新規手法の開発も行っている。これらの成果を統合してヒトゲノム由来のタンパク質に適合し、ヒトが持つタンパク質の構造、運動、分子機能を視覚的に理解できるようなデータベースの研究開発を行っている。
(3) 相互作用ネットワーク・システムバイオロジー
複合体データを調べると、Aというタンパク質はBともCとも相互作用する、というようなデータを得ることができる。これをB-A-Cのように表現し、全ての相互作用データを利用するとタンパク質ワールドの相互作用ネットワークを描くことができる。このネットワークに構造情報を付加することで、ネットワークの性質と構造の特徴がどういう関係にあるのかを調べている。また、多くのゲノムデータを比較することで生命成立のために必要最小限の条件を探求する、といった、ミニマル生物の研究も行っている。
■今後の展開
タンパク質は構造をとり、動き、相互作用をしながら働く。こういった一連のイベントで分子機能が表現される。そして、集団的に働くタンパク質の分子機能の総体として、今度は細胞機能といったより高次の機能が成立する。現在は細胞機能はおろか、分子機能をどのように表現し、統一的に理解すれば良いのか、その一般論すらない。配列、構造から高次機能の問題へ、そしてゆくゆくは個体の分子論的な扱いの問題へと、研究を拡張していきたい。 
コンピュータで設計したタンパク質の立体構造(左)と設計の目的とした鋳型構造(右)

コンピュータで設計したタンパク質の立体構造(左)と設計の目的とした鋳型構造(右)

経歴

  • 1996年早稲田大学大学院理工学研究科物理及応用物理学専攻後期課程修了
  • 1996年国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター助手
  • 2002年東京工業大学学術国際情報センター助教授
  • 2008年より現職

所属学会

  • 日本生物物理学会
  • 日本蛋白質科学会

主要論文・著書

  1. Y. Isogai, et al., Design of λ Cro fold : solution structure of a monomeric variant of the de novo protein. J. Mol. Biol. 354 (2005)
  2. M. Ota, et al., Phylogeny of protein-folding trajectories reveals a unique pathway to native structure, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 101 (2004)
  3. M. Ota, et al., Prediction of catalytic residues in enzymes based on known tertiary structure, stability profile, and sequence conservation, J. Mol. Biol. 327 (2003)