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研究者総覧「情報知」

複雑系科学専攻

氏 名
渡邉 崇(わたなべ たかし)
講座等
複雑系計算論講座
職 名
教授
学 位
博士(工学)
研究分野
流れの情報学 / 計算流体力学 / 画像解析
渡邉 崇

研究内容

物質の流れと情報の流れの複雑現象を解明する
■研究の概要■
流体の運動や、人、車、そして情報の流れがみせる複雑系現象の力学的構造を系統的に把握、理解することは重要である。このことより、計算機シミュレーションや実験によりもたらされるデータから、発見的、情報科学的アプローチを用いて、有用な情報を抽出する、流れの情報学(フルードインフォマティクス)の確立を目指した研究を進めている。
■研究テーマ■
(1) 回転場における流れの分岐現象
円柱容器内の回転円盤周りの流れや、回転2重円筒間の流れの回転流は、従来より注目されてきているが、その複雑な力学的構造は、未だに十分には明らかにされてきていない。このため、円盤と容器の間に隙間がある場合や、円筒の長さが有限である場合には、代表的な外的パラメータやレイノルズ数が同じであるにもかかわらず、異なったパターンを持つ各種の分岐構造が現れることを数値的に明らかにし、実験的に見出されている定常流モードの存在を示してきた。その上で、たとえ定常流モードが同じであるにも関わらず、そのモードに至るまでに流れがとる遷移ダイナミクスの過程が異なる、発達過程の非一意性について調べている。これらの現象の解明は、電力エネルギ保存のためのフライホイールの低抵抗運転や、効率的な化学反応器の運転についての制御を可能とするものである。
(2) 複数カメラの協調制御
流れ場に現れる渦の発達過程を詳細に解析するためにも、局所的に観測されるイメージ情報を統合して、逐次変化する渦構造を追跡する必要がある。このための基本技術、および、より汎用的な場への適用を考慮して、複数個の移動対象のうち、特定した対象を、複数台の動的カメラにより追跡する方法について研究を進めている。カメラが複数になると、それらの校正作業は複雑となる。また、移動対象の数が増し、それらの特徴も時間的に変化する場合には、通常の追跡法は適用できない。このため、時時刻刻変化する各移動物体の特徴量を随時評価し、その情報をネットワーク上で結合されたカメラステーション間で通信しあうことで、カメラ間での位置、姿勢の動的校正を行っている。
(3) 人の行動の追跡、予測
快適なユビキタス環境やセキュリティの面から、人の行動を追跡、予測する方法を構築している。ここでは、実環境におけるビデオカメラ情報から人の行動を切り出すとともに、行動の始まりと終りをイベントとして検出し、人の行動による物体の移動などの状況変化を同定する。また、観測結果に基づき、モデリングを通して人の行動の予測を行っている。この結果、わずかな環境変数の変化が、予測される人の行動の激的な変化を引き起こすことなど、興味ある結果を得ている。
(4) 流れ学における定性物理
人間とコンピュータのコミュニケーションにおいて、話題にあがる事項の共通理解を持つことが望まれる。このため、極端に散逸しやすい自然言語ではなく、対象分野を限定して、そこでの語彙、概念と、それらの意味関係を明確に記述する文法の構築を進めている。現在の対象分野は、流体工学における流れを特徴づける根幹の一つである渦に関する記述が現れる分野である。この分野に限定しても、膨大な表現を事例として集めることができる。これらの事例を、流体力学的な渦の表現を表すという見地から整理し、分類方法の検討、語彙構造の構築を行っている。
■今後の展開■
計算機支援による流動現象の解析に必要となるポイントの一つが、人間とコンピュータのインターフェイスであり、人間が流れに対して描くイメージと、計算機が自らのシミュレーション結果や実験結果に対して行う処理との適切な対応である。この機能を実現するために、流体工学全体にわたる領域オントロジの確立を進めていく必要がある。また、複雑な現象から有用な情報を取り出すための方法として、各種情報論による整理や、データマイニングの手法も有効であると考えられる。今後、これらの方法論による新しい見地からのアプローチも試みていきたい。
自由表面流れの構造変化と、行動の流れの追跡

自由表面流れの構造変化と、行動の流れの追跡

経歴

  • 1980年 名古屋大学工学部機械工学科卒業。
  • 1985年 同大学院工学研究科博士課程後期課程単位修得退学。
  • 1985年 名古屋大学工学部助手。
  • 1988年同 教養部講師。
  • 1993年同情報文化学部助教授。
  • 1998年同情報メディア教育センター教授。
  • 2005年 エコトピア科学研究所教授。
  • 2009年 同大学院情報科学研究科教授。現在に至る。

所属学会

  • 日本機械学会
  • 情報処理学会
  • 人工知能学会
  • 日本計算工学会
  • AAAI

主要論文・著書

  1. Mode formation of free surface rotating flow between concentric vertical cylinders, , J. Phys: Conf. Ser. 137 012007 (2008).
  2. Flows around rotating disks with and without rim-shroud gap, Experiments in Fluids, Vol. 48, No. 631-636 (2010).
  3. The effect of rim-shroud gap on the spiral rolls formed around a rotating disk, Physics of Fluids, Vol. 22, No. 11, 114107-1-7 (2010).
  4. Vertical Taylor-Couette Flow with Free Surface at Small Aspect Ratio, Acta Mechanics, Vol. 223, No. 2 (2012), pp. 347-353.
  5. 半径方向に隙間を持ち円柱容器内で回転する円板周りの流れのレイノルズすによる遷移, 日本機械学会論文集(B編), 78巻, 786号 (2012-2), pp. 244-252.
  6. 人の歩行軌跡の累積に基づく異常行動の特定, 日本機械学会論文集 (C編), 78巻, 788号 (2012-4), pp. 1221-1225.