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研究者総覧「情報知」

複雑系科学専攻

氏 名
鈴木 泰博(すずき やすひろ)
講座等
複雑系計算論講座
職 名
准教授
学 位
博士(情報学)
研究分野
自然計算 / ハーネスの科学 / 複雑系 / システム生物学 / 計算美学

研究内容

ハーネスの科学
■研究の概要■
複雑相互作用の科学:街を歩いていると黒い服を着ている人が何気なく目につく。そして自分が服を選ぶとき何となく黒い服を選ぶ。そんな小さな心の動き(相互作用)からモード(流行)が生まれる。モードはまるで生き物のように変化し、進化しやがて消えてゆく。こうした局所的な相互作用から生まれる系はモードのみならず、生命系(生命の起源と進化)や社会経済系(金融市場等)などの複雑な系に広く見られる。我々の研究のミッションはこうした複雑相互作用系をつかさどる統一的なしくみを解明することにある。
■研究テーマ■
我々はミクロからマクロのスケールにおける複雑相互作用系を、以下の2つの方法を用い研究している。
○構成的方法:計算機内に対象となる系を再現する方法
化学反応の抽象モデル:計算機代数(書き換え系)をベースにした化学反応の抽象モデルAbstract Rewriting System on Multisets(ARMS)を提案し応用と理論の両面から研究を行っている。ARMSは反応速度論に基づく確率モデルでもあり、Gillespieアルゴリズム(化学反応のモンテカルロシミュレーションアルゴリズム)とも関連が深い。
少数分子系:分子数が多い場合ARMSは微分方程式系と同様の振る舞いをみせるが、分子数が少なくなるにつれてその振る舞いは微分方程式系とは異なってくる。我々はシミュレーションと数理的解析を用いてかかる少数分子系の研究を行っている。特に、生態系や生体内の反応系などは、系を構成する分子(要素)数が少ない少数分子系であるため、分子の少数性が生態系での個体群動態や、生体内の反応にどのように影響するかに興味を持っている。
新しい計算パラダイム:DNA計算や量子計算のように従来とは異なった計算パライダムとして、我々は化学反応や膜を用いた計算パラダイムを模索している。膜を用いた理論計算モデルとしてはP Systemsがあるが、ARMSはP Systemsとも関連が深く理論的考察を行っている。
生態系における多種共存の原理:従来、生態系の数理的理解は「捕食者(食う)」-「被捕食者(食われる)」関係をベースとしてきた。しかし近年、従来は生態系の資源と考えられてきた植物が生態系に積極的に関与していることが明らかになってきた;食害を受けた植物は情報化学物質を発し、天敵を誘因することにより害虫を間接的に駆除する。その際、植物は害虫の種類により情報化学物質を使い分け的確に天敵を誘引する。我々はこうした生態系における“情報”が多種共存にどのように関与するのか研究している。
○現象論的方法:実際の現象から対象となる系を考察する方法
タンパク質相互作用ネットワークの解析:ゲノムは生物の設計図であり、実際に生物を構成しているのはタンパク質である。我々は実験的にスクリーニングされた大規模タンパク質相互作用ネットワークについて、数理的手法(統計・グラフ論ほか)、バイオインフォマティクス(タンパク質をコードしているゲノムを用いてのゲノム比較、アノテーション、実験データの純化)等を用い、ネットワークの構造的特徴とその生物学的な意味について研究を行っている。本研究に関連し、ネットワークの進化:分子進化をベースにした数理モデル解析や進化計算を用いたネットワークの進化実験などを通した考察や比較ネットワーク:複数の種間でのネットワーク比較、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)との構造比較などの研究をすすめている。
○チャレンジ
ヒト-ヒトの相互作用:さらに高次の相互作用系としてヒト-ヒトの相互作用について考察している。かかる相互作用での個体間の“界面”として“触覚”に着目し多面的な考察を行っている。
■今後の展開■
かつて科学は芸術と分化されておらず、分野を超えた智の創造が行われていた。その後、芸術から分化した科学・工学は“分業化”により発展してきた。複雑系の科学は分業化による豊かな成果を携え、敢えて“分業化以前”に戻ることを志向するものと考える。我々は多くの分野での研究を行っているが、その研究活動を通し、かつての“科学と芸術が分化する以前”に立ち戻り、分野を超えた新たな智の創造を行っていきたい。“現在の”我々の展開の軸は計算論的理解と実問題への応用である。
Abstract Rewriting System on Multisets(ARMS)

Abstract Rewriting System on Multisets(ARMS)

経歴

  • 1995年北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程修了
  • 1997年東京医科歯科大学難治疾患研究所助手
  • 2005年名古屋大学情報科学研究科複雑系科学専攻助教授。現在に至る。
  • 2001年博士(情報学)京都大学
  • 2002年よりATR人間情報科学研究所客員研究員(2003年まで)

所属学会

  • 情報処理学会
  • 分子生物学会
  • International Society for Computational Biology

主要論文・著書

  1. Artificial Life Applications of a Class of P Systems, Abstract Rewriting Systems on Multisets, Lecture Notes in Computer Science 2235, 299-346, Springer-Verlag Berlin, 2001.
  2. Chemical evolution among artificial proto-cells, Artificial Life VII, 54-64, MIT Press, 2000.
  3. Analysis of cycles in symbolic chemical system based on abstract rewriting system on multisets, Artificial Life V, 521-528, MIT press, 1996.