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研究者総覧「情報知」

複雑系科学専攻

氏 名
笹原 和俊(ささはら かずとし)
講座等
創発システム論講座
職 名
講師
学 位
博士(学術)
研究分野
人工生命 / 情報行動学 / 複雑系
笹原 和俊

研究内容

コミュニケーションの複雑系科学
研究概要
 複雑系の観点から「コミュニケーション」を研究しています。現在の研究テーマは、(1) コミュニケーション進化の人工生命モデル、(2) ソーシャルメディアと計算社会科学、(3) 生物の行動文法の計算モデルで、これらの探求を通じて新しいコミュニケーション理論の構築やその応用を目指しています。

(1) コミュニケーション進化の人工生命モデル
 コミュニケーションとはメディア(媒体)を介した動的な相互作用で、メディアや社会の変化と共に進化する行動です。このような動的でオープンエンドな特性を明らかにするためには、「今ここにあるコミュニケーション」を分析するだけでは不十分です。そこで、「あり得るコミュニケーション」をコンピュータの中に構成し、モデルの振舞いの中にその本質を見るのが人工生命(Artificial Life)による構成論的な分かり方です。 
 コミュニケーションを複雑系として捉え、ヒトの言語的コミュニケーション(例: 言語の進化)や動物の原初的(前言語的)なコミュニケーション(例: 鳥のさえずり)などのモデルを作り、動かすことによって、コミュニケーションの進化ダイナミクスを研究します。さらに、来るべき新しいタイプのコミュニケーション(例: ヒトとロボットの対話)のデザイン原理を提案します。

参考文献
K. Sasahara and T. Ikegami, Evolution of Birdsong Syntax by Interjection Communication, Artificial Life (2009)

(2) ソーシャルメディアと計算社会科学
 現在、人々はウェブを能動的に利用して情報を発信・共有し、実世界とは違うかたちのコミュニケーションを行っています。そして、それは実世界をも変える力を持ちます。
 本研究では、代表的なソーシャルメディアの1つであるTwitterを題材とします。Twitterは「世の中の今を伝え合う」ツールで、ユーザは今どうしているのかを140文字以内でつぶやき、別のユーザがつぶやきで反応し、その連鎖によって瞬く間につぶやきが伝搬します。このようなリアルタイム性・ネットワーク性が高いオンライン・コミュニケーションの動的特性と、その結果として創発し、進化し続ける情報生態系の発展様式を分析します。また、大規模ソーシャルデータを入力として、人々の社会行動を効率的に定量化するような解析手法を開発し、分析結果に基づくモデル研究を行います。

参考文献

K. Sasahara et al. Quantifying Collective Attention from Tweet Stream, PLoS ONE (2013)

(3) 生物の行動文法の計算モデル
 ヒトと動物を計算能力の観点から比較するという考え方が登場し、言語進化研究は大きな転換期を迎えました。特に重要なのが「広義の言語機能」(FLB)と「狭義の言語機能」(FLN)という考え方です。FLBはヒトと動物に共通する一般的な認知能力、FLNは物事を階層的に操作する計算能力(再帰)のことで、FLNとFLBの相互作用によって言語が成立すると考えられています。この仮説が提唱されて以降、生物の行動に「再帰の萌芽」を探す試みが盛んに行われるようになりました。
 本研究では、生物の行動文法(Action Grammar)の構造特性を様々な動物種間で比較し、再帰など複雑な行動を生み出す計算能力を定量的に明らかにします。さらに、行動文法の有効な解析手法を開発し、情報行動を統一的に理解するための枠組みを作ります。

参考文献
K. Sasahara et al. Structural Design Principles of Complex Bird Songs: A Network-based Approach, PLoS ONE (2012)

経歴

  • 2005年3月 東京大学大学院総合文化研究科(広域科学専攻)博士課程修了
  • 2005年4月ー2008年3月 理化学研究所脳科学総合研究センター生物言語研究チーム研究員
  • 2008年4月ー2011年3月 日本学術振興会特別研究員PD(工学)
  • 2009年4月ー2010年3月 カリフォルニア大学ロサンゼルス校訪問研究員
  • 2011年4月ー2012年5月 科学技術振興機構(FIRST合原最先端数理モデルプロジェクト)研究員
  • 2012年6月 名古屋大学大学院情報科学研究科(複雑系科学専攻)助教

所属学会

  • 人工知能学会
  • 日本進化学会
  • 日本物理学会
  • 日本動物行動学会

主要論文・著書

  1. D. Lipkind et al. Stepwise Acquisition of Vocal Combinatorial Capacity in Songbirds and Human Infants, Nature 498, pp.104-108, 2013
  2. K. Sasahara, Y. Hirata, M. Toyoda, M. Kitsuregawa, and K. Aihara, Quantifying Collective Attention from Tweet Stream, PLoS ONE 8(4): e61823, 2013
  3. K. Sasahara, M. L. Cody, D. Cohen, and C. E. Taylor, Structural Design Principles of Complex Bird Songs: A Network-Based Approach, PLoS ONE 7(9): e44436, 2012
  4. *Y. Kakishita, *K. Sasahara, T. Nishino, M. Takahasi, and K. Okanoya, Ethological Data Mining: An Automata-based Approach to Extract Behavioral Units and Rules, Data Mining and Knowledge Discovery 18, pp.446-471, 2009 (*equal contribution)
  5. K. Sasahara and T. Ikegami, Evolution of Song Syntax by Interjection Communication, Artificial Life 13, pp.259-277, 2007
  6. 笹原和俊「言語進化の動的理解ー生物言語学と構成論的モデルによるアプローチ」, 進化言語学の構築(藤田耕司・岡ノ谷一夫共編), pp. 219-239, ひつじ書房(2012年)
  7. 笹原和俊「鳥の複雑なツイートとその進化的デザイン」, 思想地図β vol.1 (東浩紀編), コンテクチュアズ, pp.174-189(2010年)