球体と渦輪の衝突によって引き起こされる渦輪の変形


渦ダイナミクスは,工業装置内で観察される流体力学の現象を理解するうえで重要です. 特に,剛体に衝突する渦輪の変形プロセスを包括的に理解することにより,工業装置や半導体デバイスなどの効率的な冷却に適した設計に貢献することが期待されます. 我々の研究室では,球体に衝突する渦輪の変形プロセスを数値シミュレーション及び実験によって調査しています.


球体に衝突する渦輪の数値シミュレーション


球体への衝突によって引き起こされる渦輪の変形を,Vortex-in-cell法を使用して数値的に調査しました. 図1に本シミュレーションの概要を示します. 直径がD=30 mmの球体をオリフィス出口から1.67Dだけ下方に配置しました. この時,ピストンの押し下げ速度は3.3 mm/sに設定しました. ピストンを下げると,オリフィスから渦輪が生成され,下方に向かって移動し,やがて球体と衝突します. ここで,計算領域は2.33D ×2.33D ×4.66Dであり,格子点数は200×200×400としました.



図1 球体の打ち上げ装置の概要



渦輪が球体に同軸衝突する場合の数値シミュレーション結果の動画をアニメーション1に,静止画を図2示します. オリフィスから放たれた渦輪(一時渦輪)は下方に向かって進行します. やがて球体と垂直に衝突すると,球体の表面付近には境界層が形成されます. その後,一次渦輪の境界層は球体からはく離し,新たな渦輪(二次渦輪)が形成されます. これらの渦輪は最終的に下方に進行しながら減衰していきます.



アニメーション1 渦輪が球体に同軸衝突した場合の渦輪の変形(動画)



図2 渦輪が球体に同軸衝突した場合の渦輪の変形(静止画)



 

続いて,渦輪と球体の非同軸衝突によって引き起こされる三次元渦構造の時間発展を調査しました. 数値シミュレーションの結果の動画をアニメーション2に,静止画を図3示します. 渦輪の同軸衝突の場合と比べると,非同軸衝突の場合の渦輪はより複雑かつ三次元的に崩壊する. 渦輪が球体と衝突した後に形成される二次渦輪はリング形状を成さず,球体右側の一次渦輪と強く相互作用して崩壊する様子が確認されました.





アニメーション2 渦輪と球体が非同軸衝突した場合の渦輪の変形(動画)



図3 渦輪と球体が非同軸衝突した場合の渦輪の変形(静止画)



数値シミュレーションと実験結果の比較


 

数値シミュレーションによって得られた結果の再現実験を行いました. 図4に渦輪が球体に同軸衝突した場合を,図5に渦輪と球体が非同軸衝突した場合を示します. それぞれの場合で,数値シミュレーションの結果と実験結果は同様の傾向を示しました. 以上のように,Vortex in Cell法を用いたシミュレーション結果は実験結果とよく一致しており,流れを非常に精度よく再現していることが分かります.






図4 数値シミュレーションと実験の比較(渦輪が球体に垂直に衝突した場合)





図5 数値シミュレーションと実験の比較(渦輪と球体が垂直非同軸で衝突した場合)



[本研究に関係する文献]

[1] V. L. Nguyen, K. Takamure, and T. Uchiyama, Deformation of a vortex ring caused by its impingement on a sphere, Physics of Fluids, Vol. 31, 107108

研究内容