液中に分散する気泡を集めて気泡群を生成し,所望の位置まで輸送する,気泡運動の制御の可能性を探っています.
気泡の駆動,供給および除去などを可能にする要素技術であり,物質移動,化学反応および熱伝達の制御など,工学的な応用展開の間口が広い技術です.
渦度がリング状に集中した渦輪を用い,渦輪の渦運動による気泡の巻込み,および渦輪の併進運動による気泡の輸送を利用します.
図1は実験装置の概略です.
水を貯めたタンクの底面に接続したシリンダの内部においてピストンをスライダで押し上げることにより,シリンダから水中に向けて渦輪を射出します.
シリンダ出口端には注射針があり,細管を通してシリンジと結ばれています.
シリンジのプランジャを上述のスライダで押し上げることにより,水中への渦輪の射出に連動して気泡を放出します.
渦輪と気泡の運動の動画を図2,分解した静止画を図3に示します.
渦輪は,水性塗料で可視化されています.
注入開始時を除くすべての気泡が巻込まれ,渦核中心に沿って周方向に分布し,気泡群を形成します.
気泡群は渦輪とともに上昇していきます.
渦輪の強度を適切に選択することにより,直径や個数に応じた気泡の操縦の可能性を示しています.
図2 渦輪と気泡の運動(動画)
液中に分散する微小な固体粒子を集めて粒子群を生成し,所望の位置まで輸送する,粒子運動の制御の可能性を探っています.
上述の気泡運動の制御と同様,工学的な応用展開が期待されます.
渦輪を用い,渦運動による粒子の巻込み,および併進運動による粒子の輸送を利用します.
図4は実験装置の概略です.
水を貯めたタンクの底面に接続したシリンダの内部においてピストンをスライダで押し上げることにより,シリンダから水中に向けて渦輪を射出します.
シリンダ出口端にはメッシュが張られ,100個の固体粒子が置かれています.
粒子の直径は1.52 mm,密度は1417 kg/m3です.
渦輪と粒子の運動の動画を図5,分解した静止画を図6に示します.
ただし,ピストン押し上げ速度に基づくReynolds数は13000です.
渦輪は,水性塗料で可視化されています.
固体粒子が渦輪に巻き込まれて粒子群を形成し,渦輪とともに上昇していきます.
上述の気泡の場合と同様,渦輪の強度を適切に選択することにより,直径や個数に応じた粒子の操縦の可能性を示しています.
図5 渦輪と粒子の運動(動画)
旋回流は工業的に広く利用されている流れのひとつです.
従来,液中の旋回流と気泡の相互作用が調べられていますが,旋回流の中心核に相当する渦芯の挙動に及ぼす気泡の影響は十分には明らかにされていません.
そこで,水中を浮力で上昇する気泡群と鉛直軸まわりの旋回流の相互作用を調べています.
図7は実験装置の概略です.
透明アクリル製の円筒タンクに水が貯められ,その底面の中心には円柱状の撹拌子が設置されています.
撹拌子は磁石を内蔵しており,タンクを支持するマグネチックスターラから付与される磁力により,タンク中心軸まわりに回転します.これによりタンク内に鉛直軸まわりの旋回流が発生します.
撹拌子の側方の2本の細管から気泡が水中に連続的に放出され,浮力により旋回水流中を上します.
旋回流と気泡の運動の動画を図8,静止画を図9に示します.
ただし,撹拌子の回転速度に基づくReynolds数は40000,気泡流量Qgは3.3 cm3/sです.
2本の細管から放出された気泡は水流から旋回速度が付与され,浮力により上昇しながら旋回流の中心軸周りを回転します.
このようなヘリカル運動をする気泡の一部は中心軸のまわりを振れ回る渦芯に巻込まれます.
旋回水流が中心軸方向への負の圧力勾配を生成し,気泡を駆動するからです.
巻込まれた気泡は鉛直方向にほぼ一列に並びます.
一方,水面には自由表面渦による窪みが見られます.
図10は,4つの高さzで測定された渦芯の振幅を示します.
Qg = 0.83 cm3/sの場合には,振幅が単相流時(Qg = 0)よりも大きく,気泡が渦芯の振動を促進しています.
しかし,Qg ≥ 3.3 cm3/sでは,Qgが高いほど振幅は低下します.
すなわち,一定量以上の気泡は渦芯の振動を抑制することが判ります.
図8 旋回流と気泡の運動(動画)
液化天然ガス(略してLNG)の密度は産地などに依存するため,産地が異なるLNGを同時に貯蔵するタンクではLNGが層状化し,タンク外部からの入熱に起因して密度が変化します.
上層と下層の密度が等しくなると急激に混合してLNGの気化をもたらし,タンクの変形・損傷・破壊を生起する恐れがあります.
層状化の防止と解消のため,噴流によるLNGの撹拌と混合が行われていますが,流れや混合の詳細は調べられておらず,LNGタンクの運用に対して有用な知見も得られていません.
そこで,LNGタンクを模擬した円筒形タンクを用い,密度成層流体の内部に向けてタンク底部から斜め上方に噴射された噴流の挙動と混合について室内実験で調査しています.
図11は実験装置の概略です.
円筒形タンクの上層に水,下層に塩化ナトリウム水溶液を貯め,底部から60 deg上方に噴流を付与します.
ノズル直径dは10 mm,タンクの直径は30dです.
塩化ナトリウム水溶液の濃度は2パーセントであり,噴流のReynolds数Reが475 ≤ Re ≤ 4573の場合を調べました.
鉛直中央断面の噴流の可視化画像を図12に示します.
噴流にローダミンBを添加し,レーザーライトシートを照射して可視化した結果です.
Reが低い場合には密度界面を突破できず混合は生起しませんが,Reが高い場合には界面を突破して上層で顕著な混合をもたらしています.
密度界面に対する噴流の相対的な運動および混合は,Reに応じて定まることが判りました.
Re = 3565の場合の鉛直中央断面における噴流の可視化動画を図13に示します.
上層での活発な混合の様子を再確認できます.
図14は,密度界面における可視化動画です.
タンク側壁に衝突した噴流が側壁に沿って流れ,断面内にひとつの渦対を形成しています.
図13 鉛直中央断面内の噴流の可視化動画(Re = 3565)
図14 密度界面における噴流の可視化動画(Re = 3565)
固体,気体,液体が混在して相互作用を及ぼし合いながら流れる固気液三相流は,物質や熱の移動を伴う化学反応や発酵などを扱う,様々な工業プロセスで見受けられます.
これまで,おもに鉛直円管内のガラス粒子-空気-水の分散性三相流について,多くの研究が行われています.
また,直径40 mm以下の円管直径に対して比較的大きい直径(6 mm~12.5 mm)をもつ粒子に関しても実験が行われています.
このような大径の分散相からなる三相流の流動特性は,上述の小径分散相の場合と同様,相間の相互作用が重要な役割を果たしているものと推測されますが,流れの詳細は十分には調査されていないのが現状です.
そこで,水中に微小な気泡群を放出して気泡プルームを生成し,その内部に置かれた球形の固体球(直径10 mm)の運動および気泡の分布と速度を調べています.
図15は実験装置の概略です.
透明アクリル製のタンク(440 mm X 440 mm X 590 mm)に低濃度(質量濃度1.3パーセント)の塩水が貯められ,底部に2本の炭素棒が平行に置かれています.
直流電源から炭素棒に電圧が印可され,水の電気分解により,陰極の炭素棒から水素気泡,陽極の炭素棒から塩素気泡が放出されます.一方,陰極炭素棒の直上に矩形断面の直管が設置されています.
この矩形管も透明アクリル製であり,上下の断面を通してタンク内の塩水が流入・流出できます.
炭素棒に近い矩形管断面の近傍には,網が張られています.
炭素棒から放出された水素気泡は,浮力で上昇して網を通過したのち矩形管の内部を上昇しながら水の流れを誘起し,気泡プルームを生起します.
矩形管の内部には球形の固体球(直径10 mm,密度1022 kg/m3)が置かれており,気泡プルームにより駆動されます.
図16と図17は,気泡の分布と固体球の運動の動画です.
ただし,電流値Iが0.5 Aと0.75 Aの結果です.
気泡の観察を容易にするため,矩形管の背面に黒いプレートが貼られています.
矩形管の下部断面から流入した気泡が上昇しながら水流を誘起し,固体球を浮遊させています.
I = 0.5 Aの場合には,固体球はいったん上昇しますが,ほぼ一定の高さで浮遊を開始します.
I = 0.75 Aでは,気泡発生量が多く水の上昇速度が高いため,固体球は単調に上昇していきます.
球まわりの気泡の分布や気泡の速度分布を調べ,固体球の運動との関連を明らかにしつつあります.
図16 電流値I = 0.5 Aの可視化動画
図17 電流値I = 0.75 Aの可視化動画