情報科学研究科 Webニュース
Volume 3, Number 1

研究室探訪

情報システム学専攻・集積システム論講座
高田・冨山研究室(教授・高田広章,准教授・冨山宏之,助教・本田晋也)

当研究室は「組込みリアルタイムシステム研究室(英名Embedded Real-Time System Laboratory,略称ERTL)」と自称しています。その名が示す通り,当研究室の研究テーマのキーワードは,「組込みシステム」と「リアルタイムシステム」です。

【組込みシステムとは?】

1台の自動車に20〜100個ものマイクロコンピュータが使われていることを知っていますか? 自動車の中には,エンジンやブレーキ制御,エアバッグ,カーナビ,運転支援などなどにコンピュータが使われており,省エネルギーや排気ガスの低減,安全性や快適性の向上のために不可欠なものになっています。

このように,機器・機械の内部でそれを制御する役割を果たしているコンピュータシステムのことを,「組込みシステム」と呼びます。組込みシステムは,自動車だけに限らず,携帯電話機や家電製品といった身近な機器から,産業用ロボットや人工衛星といった社会を支える機器まで,あらゆるところで重要な役割を果たしており,その重要性はますます高まっています。

【リアルタイムシステムとは?】

機器・機械を制御する組込みシステムには,決められた時間内に処理を完了することが求められます。このようなシステムを,「リアルタイムシステム」と呼びます。

自動車のブレーキを完全にコンピュータで制御する場合を考えてみましょう。「ブレーキペダルを踏むと,ほとんどの場合に0.01秒以内にブレーキがかかるが,たまに1秒かかる自動車」には誰も乗りたくありません。「必ずX秒以内にブレーキがかかる」という保証が必要です。

ところが現在のコンピュータでは,与えられたプログラムの実行時間を正確に求めることは,容易ではありません。例えばキャッシュメモリを使うと,普段は高速に動くプログラムが,キャッシュミスした時には実行時間が長くなります。

そこで,どのような場合でも制限時間内に処理を完了することを保証するための「リアルタイム処理技術」が必要になります。

【高田・冨山研究室では】

当研究室では,組込みリアルタイムシステムを実現するための諸技術について,ソフトウェア開発とハードウェア設計の両面から,更には両者を一体で設計する技術についても研究しています。現在の組込みシステムの多くはシステムLSI(大規模で高度な機能を持ったLSI)を用いて実現されており,ハードウェア設計についてはシステムLSI設計技術に注力しています。

また,産業界との連携を活発に行っていることも,当研究室の大きな特徴です。多くの企業と共同研究を実施していることに加えて,産学官の連携により組込みシステム向けの各種のオープンソースソフトウェアを開発するTOPPERSプロジェクトを推進しています。また,標準化活動への貢献,技術交流会やワークショップの主催といった活動にも積極的に取り組んでいます。その結果,当研究室の成果が産業界で実用化された事例も増えています。研究室に所属する学生も,これらの活動に積極的に参加しています。

【主な研究テーマ】

当研究室では現在以下の研究テーマに取り組んでいますが,これに限らず,組込みシステム技術の研究に幅広く取り組んでいきたいと考えています。

  • 次世代リアルタイムOS技術
  • マルチプロセッサのためのリアルタイムOSや,保護機構を持ったリアルタイムOS,組込みシステム向けのソフトウェアコンポーネント技術,それらの実行を支援するハードウェアなどについて研究しています。

  • システムレベル設計技術
  • C言語で記述したプログラムからハードウェアを合成するための動作合成技術,ソフトウェアとハードウェアを一体で効率的に設計・開発するための協調設計技術,動作検証のための協調シミュレーション技術などについて研究しています。

  • 組込みネットワーク技術
  • 次世代の自動車内ネットワーク技術など,組込みシステム向けのネットワーク技術について研究しています。特に,与えられた時間内に通信が完了することを保証するリアルタイムスケジューリング技術などについて研究しています。

  • 低消費エネルギー最適化技術
  • ソフトウェアとハードウェアの両者を最適化することで,組込みシステムの消費エネルギーを削減するための技術について研究しています。

【Wiiリモコンを使った2輪倒立ロボットのリアルタイム制御(動画)】



高解像度の動画はこちら

参考URL: http://www.ertl.jp/