研究室探訪
社会システム情報学専攻・情報創造論講座・戸田山伊勢田研究室
(戸田山和久教授,伊勢田哲治助教授)
共同での活動
当研究室の戸田山と伊勢田はいずれも哲学系の研究者であり、 その立場から科学哲学、倫理学、科学技術社会論などの研究を行っている。 哲学系研究者は単独 で研究を進めるのが一般的であるが、 当研究室では戸田山と伊勢田による共同研究や、 他の研究者と共同して行う研究や活動を盛んに行っている。
(1)技術倫理の研究
戸田山と伊勢田が中心メンバーとなっている名古屋工学倫理研究会(Nagoya Engineering Ethics Forum)では、 技術者の倫理教育や技術関係の不祥事の防止といった課題について協同での研究を行い、年に数回の研究会を開催している。 この研究会の メンバーが中心となって、2004年に技術者倫理教育の教科書、『誇り高い技術者になろう』を刊行した。 この研究会の中では、戸田山は主に不祥事を防ぐような社会的なしくみ作りとその一部としての技術者倫理教育の関係について、 伊勢田は技術者倫理の根拠や動機づけとなる誇りの概念について、 主に研究を行っている。 この研究会の成果として、「科学技術倫理オンラインセンター」 (http://www.human.nagoya-u.ac.jp/lab/phil/OCSTE/) を現在実験的に公開中である。 また、近年は日本技術士会中部支部の「ETの会」(技術者倫理の研究会)と共同での活動や、 台湾の研究者との国際ワークショップなども行っている。
(2)科学的実在論の研究
戸田山と伊勢田の共同の研究プロジェクトとしては、もう一つ、科学的実在論を巡る研究がある。 科学理論の性格を理解する上で、 科学が措定する観察不可能な対象の存在論的ステータスはどのようなものかということは非常に重要であり、 19世紀以来、科学哲学における主要なテーマとして論じられ続けている。 戸田山は自然主義的な実在論の立場から、 伊勢田はより反実在論に近い立場からこの問題について研究や意見交換を続けている。 この共同研究の一端は、雑誌 『ラチオ』誌上で戸田山と伊勢田によるメール対談という形で連載されている。
(3)基礎科学に対する市民的パトロネージ
これは戸田山が中心となり伊勢田も参加する形で社会技術研究開発センター(RISTEX)の公募型研究開発として行っている研究である。 従来は科学への市民からの出資は税金を財源とする補助金を国が配分するという間接的な形ばかりであったが、 市民が直接自分の関心のある研究にカンパを行うという形が現在模索されている。 名古屋大学においては天体望遠鏡「なんてん」のチリへの移設においてこうした形がとられ、 それをケーススタディする形で研究を行っている。 また、この研究の一環として、他の研究者や学生、市民とともに、 カフェシアンティフィーク名古屋という団体をつくり、サイエンスカフェを市内で開催している。 サイエンスカフェとは科学者と市民が対等な立場で科学技術の問題について気軽に意見をかわし合う場としてイギリスで発達した手法であり、 日本でもここ数年で大きな広がりを見せている。
(4) Nagoya Journal of Philosophy
当研究室が中心となって、哲学の学術専門誌、Nagoya Journal of Philosophyを毎年一回発行している。 哲学系の論文の発表媒体は必ずしも多いとはいえないため、特に大学院生にとって貴重な研究発表の場となっている。 応用倫理学などの特集を組むこともある。
戸田山教授の研究
上記の他、戸田山教授は、 数・情報・心理的状態などの抽象的対象を物理主義的な世界観とどのように整合させるかという存在論的問題や、 知識を自然現象としてとらえる視点から従来の認識論的問題設定を考え直す認識論の自然化を研究課題としている。
伊勢田助教授の研究
上記の研究の他、伊勢田助教授は、 科学的知識を含む知識というものの社会的側面(いわゆる社会認識論)を主な研究のフィールドとしている。 もう一つの関心領域といしては応用倫理学の方法論が研究課題であり、 技術者倫理だけでなく、情報倫理、環境倫理、生命倫理、戦争の倫理など、 応用倫理全般について方法論や理論の観点から研究している。
大学院生の研究
現在当研究室に所属する大学院生の研究領域は、 哲学的論理学、数学の哲学、心の哲学、社会科学の哲学、経済学の哲学、情報倫理、企業倫理学、功利主義など多岐にわたっている。 科学哲学を専門とする教員が二人いるという点では当研究室は全国でも珍しく、 また、応用倫理学の中でも情報倫理や技術者倫理を専門的に研究することのできる大学院が全国的に非常に少ないという事情もあり、 当研究室では科学哲学や応用倫理学を研究したいという大学院生にとって研究しやすい環境を整えることを心がけている。