2011年07月15日鈴木麗璽 准教授(複雑系科学専攻)
さわやかな気候とおおらかな人々とかわいい鳥たち
ーUCLAでの在外研究ー
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2010年3月から一年弱、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で、日本学術振興会の派遣事業の一環で在外研究を行ってきました。夏は暑く冬は寒い名古屋で生まれ育った私にとって、ロサンゼルスの爽やかで温暖な気候は実に快適でした。その気候のせいか、人工生命研究の先駆者の一人であり受入教員としてお世話になった生態・進化生物学科のチャールズ・テイラー教授をはじめ、研究室の皆さん、大学に関係する皆さんもおおらかで気さくな人ばかりで、とても親切にして頂きました。
私の専門は、生命に普遍的な現象が生じうる抽象的な計算モデルをつくり、実際に動かしながら理解を深める人工生命研究と呼ばれる領域です。今回は、研究の新たな方向性の一つとして、私が以前から興味を持っていた鳥の歌を具体的な対象にした研究を行ってきました。なぜなら、鳥は一般にかわいい・・・ではなくて、他の個体から歌を学習し、様々な歌を歌って他個体と多様な情報伝達を行うため、コミュニケーション能力の進化を考える上で重要な種として注目されているからです。
鳥は繁殖期において異性に対するアピールや縄張りの主張のために、比較的長い鳴き声である歌を歌います。初夏の夜明けや夕暮れの森では数多くの鳥が気持ちよさそうにさえずっています。しかし、彼らは単に好き放題歌っているのではなく、自分の歌がよく伝わりやすいように歌うタイミングをずらす例が観察されています。類似した行動はカエルなど音声を使ったコミュニケーションを行う種でも見られますが、さらに興味深いのは、無線LAN等一つのネットワーク資源を複数の基地局で共有する場合の通信方式とも似ていることです。つまり、このような状況は資源の共有に関する一般的な問題で、生物、人工物にかかわらず様々な場面で同様な振る舞いが生じているという訳です。
今回は、上記のようなやや普遍的な問題意識も念頭に置きつつ、歌の重複回避行動を、生物の持つ行動の柔らかさ(可塑性)の一つとして捉え、進化の過程でどのような回避行動が生じ得るかを、様々な鳥が歌い合う進化モデルを構築して調べてきました。現在は、テイラー教授やこの分野の先駆者である同専攻のマーティン・コーディー教授らと、人工生命モデルによる仮説形成とフィールドワークによる検証や工学的応用も含めて、より実りのある研究に発展させるべく可能性を探っています。
最後に、今回の在外研究を支援して下さった多くの方々にこの場を借りて心より御礼申し上げます。
写真:バーベキューの看板でたたずむBlack Phoebe(クロツキヒメハエトリ)。トパンガ州立公園(カリフォルニア)で撮影。同種の歌は、在外研究中に開発した北カリフォルニアの野鳥の歌を題材にした対話型進化計算に基づくiPhone用アプリケーション(iSoundScape_BIRD、無料公開中)にも収録(http://www.alife.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~reiji/iSoundScape/)。