2013年04月25日呂 仁国 ポスドク(複雑系科学専攻)
組織的な若手研究者等海外派遣プログラム

 組織的な若手研究者等海外派遣プログラムにより、2012年10月20日から12月21日までの約2ヶ月間、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(Eidgenössische Technische Hochschule Zürich, ETH)に滞在する機会をいただきました。1855年に創立されたスイス連邦工科大学チューリッヒ校は、これまでに21人のノーベル賞受賞者を輩出しており、スイスの大学ランキングでは1位、世界でも13位を獲得した有名校です(2012 QS World University Ranking)。大学は2つのキャンパスからなっています。1つは、チューリッヒ市の中心にあるメインキャンパスで、キャンパス内に歴史のある建物が数多くあり、重厚で独特の雰囲気が伝わってきます。もう1つは、市内中心部から北西に5km離れた広い丘陵地帯にあるヘンガーベルグ(Hönggerberg)キャンパスで、畑や森に囲まれながら、現代風の建築物が林立しているのが特徴です。

 今回滞在したNicholas D. Spencer教授の研究室はヘンガーベルグキャンパスにあります。Spencer教授は、表面機能化や表面特性解析の研究、またそれらのトライボロジー、インプラント材料、バイオセンサーへの応用研究分野で著名な研究者であり、トライボロジー分野の主要学術誌「Tribology Letters」のチーフエディターも務めています。研究室には、表面現象に関する高度な計測技術と設備が充実しているため、滞在期間中は、現在携わっている「ナノ液体膜の微細パターニングによる機能性薄膜潤滑システムの創成」というプロジェクトに関する単分子層厚さパーフルオロポリエーテル(PFPE)潤滑膜の構造についての研究を行いました。また、Spencer教授の研究室が行っているポリマーブラシ(Polymer brush)の合成と摩擦学特性の解析に関する研究は世界中から注目を集めています。そこで、私が関わった共同研究では、親水性のPAAM-g-PEG(poly(allylamine)-graft-poly(ethylene glycol), polymer brushの1種類)を対象にして、glycerolとpolyvinylpyrrolidoneなどで潤滑剤の粘度を調整することを通して、ポリマーブラシの摩擦学特性を考察しました。この研究成果は、マイクロマシン(MEMS)などの領域においても幅広く応用できるので、現在の名古屋大学の研究室が推進している研究活動にも有益な示唆を与えてくれると思われます。

 最後に、もう一度スイスでの生活を振り返ってみれば、いろいろな思い出が浮かんできます。スーパーの営業時間などに慣れなくて戸惑った頃は、研究室のメンバーがたくさんのことを教えてくれました。12ヶ国からの研究者たちがいる研究グループは、international familyのようなもので、研究のことはもちろん、異文化交流の面でも非常に良い刺激を受けました。また、スイスの雪景色は本当に素晴らしくて、いつも癒されました。

 短い滞在期間でしたが、私を温かく迎えてくださったSpencer教授、そしてそこで出会った研究室のメンバーに改めて感謝いたします。


  • 写真:チューリッヒ市街中心を静かに流れるリマト川

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