2009年09月17日複雑系科学専攻・創発システム論講座
永峰研究室(永峰康一郎准教授)
● 研究室の概要
「原天地之美、達萬物之理」(天地自然のすぐれた働きを根拠として、万物の道理を明らかにする)-中国古代『荘子』のこの句をモットーに、自然に生起する複雑系の事象である地震の発生や岩石の生成のメカニズムを探る研究を行ってきました。そこでは温泉と共に湧出するガスや花崗岩に含まれるガスを分析し、その結果に含まれる情報を解析する地球化学的手法を主に用いてきました。今年から少し目先を変えて、新たに研究室に入ってきた学生と共に次のようなテーマで研究を始めています。
- ・呼気ガス分析による有酸素運動の強度評価
- ダイエットやメタボといった言葉を頻繁に耳にする今日この頃ですが、肥満の防止のために余分の体脂肪を減らすことは周知の事実です。もし運動時に脂肪の燃焼具合を簡単に知ることができればより効果的に運動できるでしょう。さて人間の吐く息(呼気ガス)には微量のアセトンが含まれています。このアセトンは主に脂肪が燃焼したときに生成されますが、運動強度と呼気ガス中のアセトン濃度との関係についてはまだ定量的に明らかにされていません。そこで本研究では様々な条件で有酸素運動を行い、その前後の呼気ガスに含まれるアセトンを分析することによってこれらの関係を探ります。この方法が実用化されれば、血液検査のように体に傷を付けることなく(非侵襲で)一般の人が容易に体脂肪の燃焼を知ることが可能となるでしょう。この研究は総合保健体育科学センター、国立循環器病センター、椙山女学園大学との共同研究で行われています。
- ・地球化学図と地名とのつながり
- 近年河川の土砂を分析する効率的な方法によって、土壌や岩石に含まれる元素の分布を地域や国土全体について明らかにする地球化学図が作られるようになりました。この図を見ると、どの地域にある元素(例えば水銀)が濃集しているかよく分かります。一方、古くからある地名には特定の元素を含む鉱物の名前に由来するものがあります(例えば水銀を含む辰砂に由来する丹生)。現代の日本ではほとんどの鉱業生産が衰退してしまいましたが、地名に名残をとどめている場合がよくあります。そのような場所ではその元素濃度が高いことが予想されます。本研究では、兼担している情報文化学部の文理融合教育の一環として、地名と地球化学図との関連を明らかにしようと試みています。
- ・GPSカメラによる画像の撮影位置情報の記録
- 地質調査や植生調査などのフィールドサーベイにおいて試料を採取する際、採取地点の情報を記録しておく必要があります。山中など周囲に目標物が乏しい場所で位置を特定することは困難でしたが、最近ではGPSの普及により、位置情報の取得は容易となりました。一方、試料採取現場では多くの場合写真を撮り記録として残します。もし写真を撮ると同時に位置情報が画像と共に記録されれば採取作業が相当省力化されるはずです。残念ながら今のところGPSを内蔵したカメラは普及していません。そこで本研究ではカメラとGPS、さらには方位センサや加速度センサを組み合わせ、写真を撮ると同時に位置情報のみならず、カメラの姿勢情報を画像と共に記録するシステムを開発しています。GPS衛星からの信号には原子時計に基づく正確な時刻情報も含まれているので、このシステムが実用化されれば、いつ、どこで、どちらを向いて撮影したか画像に記録されるので、フィールドサーベイのみならず幅広い用途で画像の利用価値が飛躍的に向上されるでしょう。
● 研究室の様子
メンバーは教員1人と学生3人(前期課程1年1人、情報文化学部自然情報学科複雑システム系4年2人)です。現在のところ教員室兼ゼミ室1スパンとそれに隣接する学生控室兼実験室1スパンの非常にこぢんまりとした研究室ですが、狭い分和気あいあいとにぎやかに研究を進めています。年度初めには情報文化学部1年の指導生なども招いて恒例のたこ焼きパーティを開催しました。実際にたこ焼きを焼くのは皆初めてだったようで、最初は遠巻きに教員が焼くのを見守っていたのにそのうち自分で焼いてハマっていきました。また、環境学研究科・情報文化学部自然情報学科環境システム系と研究分野が近いので、環境システム系で月1回開催するEQゼミに参加し、お互いの研究交流を深めています。
● 学生のひとこと
- ・垣津奈美(前期課程1年、写真前列右)
- まず永峰先生についてですが、第一印象は少しこわいと思う人ももしかしたらいるかもしれません。しかし先生は、本当はとても暖かみのある方だと思います。研究に対する指導はもちろん、学生のやりたいことを応援して下さいます。また、15時にはコーヒーも淹れていただいています。次に研究室の雰囲気はというと、上記の説明にもあるように正直、研究室は狭く人数も少ないです。しかしその分とてもにぎやかで、笑顔が絶えない研究室だと私は思っています。私は他大学を卒業し、今年名大院に入学したので、まだまだ未熟者ですが、その分研究室で得られることは多いと思っています。
- ・茅野琴乃(学部4年、写真前列左)
- 今はおしゃべりとコーヒーブレイクを楽しみにして毎日研究室で地図と格闘しています。自分の研究だけでなく、違う分野の研究をしている人と一緒に勉強しているので、毎日新たな発見ばかりです。
- ・川合智之(学部4年、写真後列左)
- 研究室はとても狭いので不自由なことも多いですが、毎日恒例15時のコーヒーブレイクなどで交流を深めています。豆から挽く先生特製のコーヒーは絶品です。私たちの研究室の学生はそれぞれ全く異なる分野の研究をしており、4月からはじめたばかりなので、それぞれの研究で詰まってしまうことも多いです。しかしみんなで知恵を出しあって協力して問題解決に励んでいます。