2013年11月22日メディア科学専攻
森研究室(森健策教授(情報連携統括本部)、小田昌宏助教)

●研究室の概要

 森研究室では、画像処理、コンピュータビジョン、コンピュータグラフィックス、バーチャルリアリティなどメディア処理の中でも画像を中心とした研究を行っています。特に、2次元画像のみならず3次元画像や4次元画像など高次元の画像を対象とした研究を行っています。また、画像メディア処理の医療応用に関する研究も幅広く行っており、理論・手法の追及のみならず、それらを用いた真に社会に役に立つシステムの研究を行っています。「人」を対象とした画像処理のうち、「人体内部の構造」をコンピュータが理解し判断する研究を行っていることが大きな特徴です。実際に、研究室内で開発された手法は、病院などにおいて、病気の診断、治療、内視鏡手術などに生かされ、数多くの人の役に立っています。さらには、高次元画像処理を生かした産業画像処理、新しい可視化手法など、画像メディア処理における新たな分野を切り拓いています。最近では、文部科学省科学研究費補助金新学術領域「医用画像に基づく計算解剖学の創成と診断・治療支援の高度化」の計画研究の一つとして、「計算解剖学」と呼ばれる新しい分野の創出にかかわっています。また、名大病院とのその関連病院の先生方との間でたくさんの共同研究を行っています。特に、名大病院とは、脳神経外科、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、消化器内科、肝胆膵外科、消化器外科、小児外科、形成外科、放射線科の先生方と共同で研究を進めています。

●コンピュータ支援画像診断

 コンピュータ支援画像診断は、病院で撮影されるCT画像から、肺がんやポリープが疑われる領域を自動的に検出するものです。また、リンパ節などを自動的に検出する研究なども行っています。森研究室では、肺、肝臓、胃、小腸、大腸などを対象とした研究を進めています。ここでは、3次元画像(人体の断面画像が積み重なったものです)から、円形状の塊領域、あるいは、突起領域などを自動的に検出するものです。このようにして検出された領域は、CT像から生成される仮想的な内視鏡画像(仮想化内視鏡画像)に重ね合わせて表示されます。
 大腸の場合には、内視鏡に代わる検査としてCT画像を用いた検査法が注目されています。このような検査法はCT Colonographyと呼ばれています。CT検査で撮影される画像から仮想化内視鏡画像を生成し、その画像を基にポリープの検査を行います。しかしながら、皆さんご存知のように、大腸は曲がりくねった管状の臓器であり、仮想化内視鏡による検査では、大腸内部をフライスルーしながら腸管壁面上すると、とても時間がかかります。そこで、大腸を一直線に伸ばし切り開いた形で観察する手法が開発されてきています。また、この切り開かれた画像上に、自動的に検出された大腸ポリープ領域をマーキングすることも行われています(図1)。
 小腸の検査でも同様な画像診断支援システムを開発しています。クローン病と呼ばれる病気では、潰瘍が認められることが多く、潰瘍状の領域(凸凹状)の領域を自動的に検出する手法なども開発されています。
 がんなどになるとリンパ節が大きくなる(腫大)ことが多くあります。がん細胞が転移して腫大したリンパ節は、外科手術において取り除かないといけません。このような、腫大リンパ節を自動的に発見する技術の開発も極めて重要です。森研究室では、腫大リンパ節を選択的に強調可能なフィルタと機械学習の手法を利用して検出する手法を開発しています。

図1 大腸ポリープ診断支援システムの画面例

●手術シミュレーション

 患者さんの解剖学的な構造は一人ひとり異なるため、手術前に撮影されるCT像を用いて、各患者さんの臓器位置、形状、血管分岐パターンなどを解析します。そして、この解析結果を、コンピュータグラフィックスの技術により3次元的に可視化します。CT像から臓器が存在する領域を取り出す処理はセグメンテーション処理と呼ばれています。最近では、大規模な医用画像データベースとそれに付与されたラベル画像から、未知画像に対して精度よく臓器領域を抽出手法が実現されています。さらに、血管などには解剖学的名称が自動的に対応付けられます。このような結果を基にして、個々の患者さんの3次元画像を構築し、手術シミュレーション画像として利用します。また、臓器変形などをシミュレーションすることもできます。

図2 CT像からの腹部臓器セグメンテーションの例

図3 腹部動脈の血管名表示結果

図4 胃切除腹腔鏡手術シミュレーションの例

●手術ナビゲーション

 外科手術支援システムの開発も、森研究室の重要な研究テーマです。森研究室では、名大病院、愛知県がんセンターなどと協力しながら研究を進めています。手術ナビゲーションとは、手術中にカーナビゲーションのように、医師をナビゲーションするシステムのことです。また、手術前に、手術に役立つ3次元画像を生成することも、広義には手術ナビゲーションと呼ばれています。
 腹腔鏡手術ナビゲーションでは、内視鏡、鉗子(手術に用いる棒状のはさみです)に位置センサを装着します。位置センサから得られる情報を基に、内視鏡画像に対応する仮想化内視鏡画像を生成し、現在どのあたりを見ているのかを分かりやすく表示します。また、鉗子位置も仮想化内視鏡画像上に表示することができます。これによって、鉗子位置は切除などの対象部位かどうかを容易に判断することができるようになります。

図5 腹腔鏡手術ナビゲーションの例

●軟性内視鏡検査ナビゲーション

 気管支や大腸などの検査では、自由に曲げることのできる軟性内視鏡が用いられます。腹腔鏡手術では、本体が固い筒状の硬性内視鏡が使われており、手元側に位置センサを装着すれば、内視鏡先端位置の推定することができます。しかしながら、軟性内視鏡ではこの手法が使えず、内視鏡画像音仮想化内視鏡画像を比較することによって内視鏡先端位置を推定する手法、超小型磁気式位置センサを利用して内視鏡先端位置を推定する手法などが開発されています。この手法を利用することによって、現在の内視鏡位置を医師につたえ、検査すべき個所に誘導する内視鏡検査ナビゲーションの研究を行っています。

図6 気管支鏡検査ナビゲーションシステムの例

●臓器モデル立体造形

 3Dプリンタを利用した臓器モデル立体造形とその利用法に関する研究を行っています。CT画像などの自動解析結果を基に臓器モデル造形に必要なデータを自動生成し、そこから臓器モデルを造形する手法の開発を進めています。手術前のシミュレーション、手術中のナビゲーション、医学・看護教育医療など、新しい利用法についても研究を進めています。

図7 立体造形された臓器モデルを腹腔鏡により観察している様子

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