2016年08月09日複雑系科学専攻
泉田研究室(泉田勇輝助教)
私の研究室では主に非平衡熱統計力学・非線形動力学を研究しています。また複雑系科学に携わる多自由度システム情報論講座の先生方と協力し, セミナーやコロキウムなどの日々の教育・研究活動に取り組んでいます。
私はこれまで主に熱機関の効率の問題を通して非平衡熱統計力学の研究をしてきました。私たちの身近にはエアコンや冷蔵庫などの熱力学サイクルとして表せる機械がたくさんあります。今から200年近く前にカルノーは, 「熱機関は無限に遅い動作で常に平衡状態を保ちながら動くことで最大効率を達成できる」ことを発見しました。熱力学史における大発見です。しかし, 無限に遅い熱機関は役立ちません。実は, 近年, 有限時間すなわち非平衡状態で動く熱機関の研究が急速に発展しています。従来の制約の課せられない熱機関は, 効率は下がりますが, 「仕事率」という実際の機械にとって重要な物理量を最大化すると, そこには新しい普遍的な法則があることが明らかになってきました。熱エネルギーの有効利用への関心や環境の有限性の認識もこうした背景にあります。
このような熱機関に関する新しい熱力学的知見は工学的な応用に留まらず生物システムへと広がります。例えば, 生命活動の多様な機能を担う微小生物の鞭毛や繊毛は流体力学相互作用によって互いに同期(シンクロ)した運動を示しますが, こうした結合振動子系の同期現象とエネルギー効率性に関する熱力学的考察から生物物理学の問題にアプローチしています。
研究には手計算による理論解析から, コンピュータを用いた数値計算や分子動力学法によるシミュレーションなど, 研究手法は限定せず, 現象の本質的な理解を目指しています。また研究テーマはこうしたことに限定されず, 物理・生命・社会科学など複雑系科学に関わる新しい分野の開拓も積極的に行っていきたいと考えています。自分で究めてみたい研究テーマがある方は議論をおつきあいできると思います。興味をもたれた方は気軽に研究室を訪ねてみてください(写真はコーヒーブレイク中?のひと時です)。
参照URL:
http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~izumida/
http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp