2012年03月19日社会システム情報学専攻・情報社会基盤環境論講座
林グループ
●グループの概要
本グループは2010年11月に発足したまだまだ若い研究グループです。情報社会基盤環境論講座は社会システム情報学専攻の協力講座で、教員の所属は情報基盤センター学術情報開発研究部門になります。現在は、ここの林准教授と2名の学部4年生で研究を進めています。
●研究の概要
知識の共有・活用を支援する情報システム構築のために、そのための活動プロセスに注目し、そのモデル化に関する研究を進めています。各人が自分の知識を構築する、他の人に自分の知識を伝える、このようなときにどう知識を明示化し、どのような活動によって行うか計画することを情報システムを通じて支援することが目標です。
これを実現するための鍵となるのは、知識の共有・活用プロセスについて人とコンピュータが共有できる共通概念体系を構築することです。人が計画する活動プロセスに対してシステムが助言できるようにするには、それをシステムが理解しなければなりません。その理解の基盤となる概念体系を構築する方法論を情報工学の分野ではオントロジー工学と呼んでいます。オントロジーは元々、哲学における存在論を表すものですが、その考え方をベースに構築する情報システムで扱う対象に関しての概念を工学的な観点から整理し、モデル化の基盤とするのがオントロジー工学の役割の一つです。詳細は(溝口、2005)(溝口、2006)をご参照ください。
本グループではこのオントロジー工学をベースに、教育を具体的な対象として学習・教授プロセスに関する概念体系を構築し、学習・教授法に関する理論的知識(学習・教授理論など)や経験的知識(現場の教師が持つノウハウ)までをモデル化し、学習・教授プロセスの設計を支援することを目指しています。また、開発しているシステムは共同研究をしている東京都の中学校社会科教師のグループにおいて利用し、その効果の検証と改善を進めています。
●研究テーマの具体例
学習・教授理論やベテラン教師の知識を「知って」いる授業設計支援システムに関する研究
知識のモデル化とその活用の一例として、教育学における理論的知識(学習・教授理論)や現場の教師が持っている実践的知識(ベストプラクティスなど)のモデルを持ち、教師が設計したい授業の目的に合わせて適用可能な知識を提供してくれるシステムを開発し、現場の教師に利用してもらい検証しています。
学習プロセスに注目した学習指導案データベースに関する研究
学習指導案とは、教師が授業の実施前にその目標や具体的な活動を記述したもので、他の教師とその内容を共有したり、その教師自身が記録として残すために作成されます。このような学習指導案が現在ではweb上で公開され、対象とする科目や学年の観点から様々なものを入手することが容易になっています。本テーマではそれを発展させて、指導方法の観点から検索し入手できるような仕組みを提案しています。
教師の知識共有のための授業意図の可視化に関する研究
上記の学習指導案を扱う上での問題点は、授業全体の目標や教師と生徒の具体的な活動の記述が多く、それらの活動が目標に対してどう貢献するのかが明確ではないことが多いことです。そのような学習指導案の背後にある教師の意図を明示化し、それを学習指導案と対応付けて提供することによって、教師がよりよく互いの学習指導案の内容を理解し、指導方法を共有しやすくなるような仕組みを提案しています。
溝口 理一郎 (2005) オントロジー工学, オーム社
溝口 理一郎, 古崎 晃司, 笹島 宗彦, 來村 徳信 (2006) オントロジー構築入門, オーム社