2012年8月10日加藤真平 講師(情報システム学専攻)2012/4/1着任
2012年4月に着任した加藤真平です。オペレーティングシステム、サイバーフィジカルシステム、並列分散システムの分野を中心に、社会のインフラとなり得るようなコンピュータシステムに関する研究を進めています。
今日、コンピュータシステムは私たちの生活に不可欠なものとなっています。パソコンや携帯電話は言うまでもありませんが、その他の例として、スパコンは科学の解明に不可欠な技術ですし、車載・交通システムは社会基盤そのものといえます。私の研究テーマの1つは、これらコンピュータシステムの基幹部に相当するオペレーティングシステム(OS)です。OSに安全性がなければ、システム全体に安全性がなります。OSに信頼性がなければ、システム全体に信頼性がなくなります。 OSに正確さがなければ、システム全体に正確さがなくなります。私は、特に社会基盤を構築するコンピュータシステムという観点で、サイバーフィジカルシステム(CPS)~情報技術と実世界が互いに密に連携するシステム~を支えるOSやその関連技術の研究に興味を持っています。CPSの代表例として、自動運転できる車、渋滞の発生しない交通システム、環境モニタリング、スマートホーム、ヘルスケア等がありますが、これらはすべてコンピュータシステムとその他の分野(例えば、物理学、医学、都市工学等)が密に連携して初めて実現できる複雑なシステムですが、すべてのCPSに共通して言えるが1つあります。それは「実世界の情報を感知し、適切な情報処理を行い、その結果に基づいて実世界を操作する」というループになっていることです。このループをシステムごとに決められた時間粒度で適切に情報処理できることがCPSを実現する鍵となります。しかしながら、実際には複数のループが複雑に形成されていますので、OSやその関連技術なくしてCPSの実現はあり得ません。 私の研究グループはこの分野で世界をリードする立場にあり、関連する様々な研究プロジェクトを進めています。
CPSは今のところ組込みシステムという位置づけですが、実世界の情報量を考えればその計算量は従来の組込みシステムの枠をはるかに超えます。自動運転の例では、車載システム自体を超高速化しないといけませんが、同時に消費電力も考慮しなければなりません。そのために注目されている技術がメニーコアです。メニーコアは消費電力を抑えつつ計算性能を劇的に向上できる画期的な技術であり、今日ではGPUがその代表例となっています。2012年現在では、1つのチップに1500個以上のコアを集積できるほどになっています。しかしながら、メニーコアを使いこなすにはこれまでとは違ったプログラミング方法が必要になり、OSやその周辺システムソフトウェアにも変革が求められています。CPSの中にはさらにスケールアップが必要なシステムもあります。 例えば、大都市の交通流シミュレーションでは数百万の車や人をデータとして扱って情報処理しないといけません。これをリアルタイムに実現するには、これまでの組込みシステムだけではなく、ネットワークを介してスパコンにアクセスして計算を任せるような構成も必要になってきます。しかしながら、今日のスパコン技術でもリアルタイムに交通流シミュレーションを解くことは極めて難しく、100倍・1000倍のスケールで性能向上が求められます。メニーコア技術はこういった領域でも注目されているのですが、上述のようにそのプログラミングはこれまでの方法とは異なっていて、さらに複数のコンピュータがネットワークに接続されていることを意識したプログラミングも必要になってくることから、限られた専門家以外はその技術の恩恵を受けられないのが現状です。 私の研究グループでは、このような複雑化されたネットワークとメニーコアの集合を、簡単にプログラミングできる仮想的な1つの巨大なメニーコアとしてユーザに見せられるシステムソフトウェアの研究も行っています。
上述の研究プロジェクトに限らず、CPSやスパコンというテーマの中で、テクノロジの革新、社会課題の解決に貢献できる研究、さらにはそれができる人材を生み出すための教育に励んでいきたいと考えています。