2012年10月4日笹原和俊 助教(複雑系科学専攻)2012/6/1着任
2012年6月に着任した笹原和俊です。コミュニケーションの複雑系科学を、人工生命(Artificial Life)と情報行動学(Information Behavior)のアプローチで研究しています。
コミュニケーションとは、何らかのメディア(媒体)を介した動的な相互作用で、メディアや社会の変化と共に進化し続ける行動です。このようなダイナミックでオープンエンドな特性を明らかにするためには、「今ここにある」コミュニケーション(communication as it is)を分析するだけでは不十分です。そこで、「ありうる」コミュニケーション(communication as it could be)をコンピュータの中に構成し、モデルが紡ぐプロセスの中にその本質を探るというのが、人工生命による構成論的な理解の仕方です。 コミュニケーションを複雑系として捉え、抽象化された動物の原初的(前言語的)コミュニケーションや、人の言語的コミュニケーションのモデルを作り、シミュレーションして、エージェント間の相互作用から生じる創発現象や進化ダイナミクスをこれまで研究してきました。このような構成論的アプローチによって、新しいコミュニケーション様式の可能性を探っています。
情報行動学のアプローチにおいては、人や動物の大規模行動データを分析して、コミュニケーションの生物学的、社会的、進化的基盤を探求しています。特に精力的に取り組んでいるのが、「ツイート」の情報行動学です。ソーシャルメディアの1つであるTwitterにおける人のツイート(つぶやき)と、音声を用いたコミュニケーションの代表例である鳥のツイート(さえずり)を、コミュニケーションの進化という文脈で研究しています。 現在、人々はウェブを能動的に利用して情報を発信し、共有し、実世界とは違うかたちのコミュニケーションを行っています。そして、それは実世界をも変える力を持ちます。Twitterは、「世の中の今を伝え合う」メディアで、ユーザは今どうしているのかを短文でつぶやき、別のユーザがつぶやきで反応し、その連鎖によって瞬く間にツイートがソーシャルグラフ上を伝搬します。このようなリアルタイム性、ネットワーク性が高いオンライン・コミュニケーションのダイナミックな特性と情報生態系の進化を、情報行動の新しい定量化手法を開発し、分析することで明らかにしようとしています。
図1 2011年2月と3月のツイートストリーム。通常は3つのピークをもつ概日リズムを示すが、震災直後にはバーストと不安定な振動が見られる。
図2 Aはさえずりのネットワークで、ノードは音要素、リンクは音要素間の遷移を表し、ノードの大きさはリンク数に比例するように描かれている。BはAと同じノード数とリンク数をもつランダムネットワーク。CはさえずりネットワークAの、DはランダムネットワークBの次数分布。さえずりがランダムでない構造を持つことがわかる。
以上で簡潔に述べた、人工生命のダイナミクスやツイートの情報行動学を通じて、「コミュニケーションとは何か」という問いに対する答えを探求し、新しいコミュニケーションの理論の構築を目指したいと思います。また、それをもとにして、来るべき新しいタイプのコミュニケーション(例えば、ヒトとロボットの対話など)のデザイン原理を提案し、実社会へと応用することを目指して研究を進めて行きたいと思います。