2011年12月21日荻野正雄 准教授(情報システム学専攻)2011/11/1着任
2011年11月に着任しました荻野は、ものづくりの現場に役立つ大規模計算を目標に、計算力学を主な基盤とし、有限要素法による構造解析などの大規模数値解析技術、高速化技術、および応用技術についての研究を進めています。
有限要素法などによる数値解析は、現代のものづくりに必要不可欠な技術の1つとなっています。例えば、製品が販売されるまでには設計・試作・実験・評価が何度も行われるのですが、全てを実物で行うと多くの費用と時間を要してしまいます。また、高層ビルや船舶、橋梁などの大型人工物では試作や実験自体が困難であり、さらに保守まで考慮した場合には、何かしらの評価手法が必要となってきます。そこで、計算機を用いた数値解析によって仮想的に実験を行うことで、コスト削減や安全性確保を行うことができるようになりました。
従来そのような計算機を用いた数値解析は、製品全体を単純化したモデルや一部品の詳細なモデルに対して実施することで、全体の大まかな振る舞いを把握するための定性的評価向けツールとして用いられてきました。しかし、近年の計算機性能の向上に伴って、製品全体の詳細モデルを取り扱うことが可能となり、定量的評価向けツールとしての需要がでてきました。ものづくり分野の数値解析は最終的に連立一次方程式を解くことに帰着することが多いのですが、そのような詳細モデルでは方程式の未知数が非常に大規模なもの(図は未知数1.4億個の例)となり、その実現には大規模計算の技術が必要となってきます。
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図 古代建築物パンテオンの自重解析
京コンピュータをはじめとして全国に設置されるスパコンや、近年では机の上におけるデスクトップパソコンでも大規模計算を実現できる性能を有しています。しかし、大規模計算にはそれを実行するための計算機資源だけではなく、学際的な知識と技術が要求されます。例えば、全体の計算をどのように分割して並列処理するか、並列化によって得られる解が大きく変わっていないか、生成される大規模なファイルをどう操作するか、そもそもどうやってプログラムを書くのか、などなど。そのため、大規模計算が可能な計算機資源が入手しやすくなった今でも、実際に使われている数値解析はなかなかその恩恵を受けられていないものが多いのが現状です。
私のところでは、大規模計算を実用化するために、将来の並列計算機を想定した数値解析アルゴリズム、高速化技術、および応用技術についての研究を進めています。将来の並列計算機とは、マルチコアCPU、GPGPU、メニーコアなど多様な演算処理装置が混在している状態も想定しています。その場合例えば、最終的な連立一次方程式をどのように分割するか、というアプローチだけでは柔軟性に欠ける場合が出てきます。そこで、本来問題がもつ空間的・時間的特徴を生かして解析対象を分割し、その上で全体の方程式を組み立てていく研究を進めています。これにより、計算機環境の変化に柔軟な負荷分散が可能になります。
また、大規模な方程式の求解には反復法と呼ばれる繰り返し計算を用いることが一般的なのですが、大規模問題では反復1回あたりの計算量が増えるだけでなく、反復回数も増加してしまうことが知られています。そこで、反復回数を少なくする前処理について、大規模計算と並列処理の観点から研究しています。その他に、GPU活用やスパコンによる3次元可視化などの応用研究も行っています。
これら研究成果はソフトウェア化し、マニュアル整備、使いやすいユーザーインターフェースの提供を行うことで、大規模計算が普及し、より高品質で高性能なものづくりに貢献していきたいと考えています。