2014年11月07日久木田 水生 准教授(社会システム情報学専攻)2014/4/1着任

2014年4月から大学院情報科学研究科社会システム情報学情報想像論講座、および情報文化学部社会システム情報学科メディア社会系に着任しました。専門は言語哲学、技術哲学・技術倫理、人文情報学(人文学の研究にICTを活用するための方法論やシステムの研究開発)です。言語哲学に関しては特に数学の言語がどのような意味を持っているのかを、数学者の言語実践・言語行為に即して研究しています。技術哲学・技術倫理に関しては、特に人工知能やロボットに関心を持っています。これらのある意味で人間に匹敵するような知的能力を備えたテクノロジーの産物が私たちの生活のあちこちで利用されるようになるとき、人間と社会はどのように変容していくのか、そしてそのような変化に対して私はどのように向き合っていくべきかということを考えています。また人文情報学に関しては、歴史的文献の研究を支援するSmart-GSというソフトウェアシステムの開発に参加しています。

節操なく色々なことをやっているように見えるかもしれませんが、私の興味は一貫しています。それは、テクノロジーと人間の間の相互作用、そしてそこから創発する意味と価値の次元に向けられています。このように述べるとき、私は「テクノロジー」という言葉を「人間がよりよく生きるために作り出し、そして利用するもの」という非常に一般的な意味で使っています。そこには言語や記号、科学理論や概念、社会制度や規約なども含まれます。人間は様々なテクノロジーを生み出し、それによって自分たちの認知能力と行動能力を拡張し、それによって更に高度なテクノロジーを生み出してきました。

人類の歴史において科学とテクノロジーの発展は社会構造にしばしば大きな変革をもたらしてきました。農業の始まりによって人類は大規模な定住社会を形成し、富を蓄積し、社会的分業をすることになりました。工業の発展は膨大な財を生み出し、資本主義という新しい社会の在り方を可能にしました。そして現在では情報技術の急速な発展が「革命」と呼ばれるほどの大きな変化をもたらしつつあります。アルビン・トフラーはこれを農業の開始・産業革命に次ぐ「第三の波」と呼んでいます。

科学とテクノロジーはまたこれまでに何度か私たちの世界観と人間観に劇的な転換をもたらしました。例えば地動説は「人間は宇宙の中心に位置している」という認識を覆し、進化論は「人間は他の動物とは異なる特別な生物である」という認識を覆し、精神分析学は「人間は理性と意志によって自らをコントロールしている」という認識を覆しました。これらの革命に次ぐものとして、ルチアーノ・フロリディは情報技術の発展によってもたらされつつある変化を、「第四の革命」と呼んでいます。

こういった考えは決して大げさではありません。それほどの大きな歴史的転換の時期に私たちは生きています。情報技術の産物がますます私たちの生活世界に入り込んでくると同時に、私たちはますます多くの時間を情報技術の提供する仮想現実の中で過ごすようになっています。現実世界と仮想現実の世界はその境界線を徐々にぼかしながら一つの世界へと混ざり合っていくかのようです。

この急激な変化の時代にあって、私たちには、新しい人間観と世界観、そして新しい価値観が必要です。私はそういったものを提供し、従来の人間観・世界観・価値観からスムーズなヴァージョンアップを促進することが今の時代の哲学者・倫理学者の重要な仕事であると考えています。もちろんこれは哲学者・倫理学者だけでできる仕事ではありません。工学者、情報技術者、社会学者、心理学者、歴史学者、市民など、様々な人々との協力しながら初めて可能になることです。その意味で私は様々な分野の人々が集まる名古屋大学の情報科学研究科、情報文化学部に来ることができて非常に嬉しく思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

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