2007年01月22日計算機数理学専攻
2006年には日本の確率・統計の基礎分野で2つの大きなニュースがありました。2006年8月に伊藤清先生がマドリードでの国際数学者会議で第1回ガウス賞を受賞されました。伊藤先生は確率微分方程式と呼ばれる確率解析の新しい分野を創始され、それが数理ファイナンスの基本的方程式であるブラックショールズモデルへと発展する礎を築かれた日本を代表する数学者です。伊藤先生の業績が現在の数理ファイナンスや金融工学の分野の創設へと発展していったのです。
また、同じく11月には赤池弘次先生が京都賞を受賞されました。赤池先生は「赤池情報量規準」と呼ばれる新しいモデル推定の統計手法を開発し、世界に広めたことにより国際的に高い評価を得ています。
伊藤先生は、ご自身の研究は純粋に数学的な研究であり、想像を超えた数理ファイナンスの領域にまで応用されるとは意識していなかったとコメントしておられます。一方で赤池先生は常に一貫して現実の問題に根ざした統計学の発展を目指しておられます。研究姿勢の違いはあれ、またご自身が意識するしないに関わらず両先生の優れた研究はその分野のみならず自然科学・社会科学の諸分野に広く浸透しています。このようなさまざまなブレイクスルーがあり、情報科学の基礎分野は数理科学をその基盤としながら諸科学の発達とともに着実に発展してきました。
計算機数理科学専攻では、各研究者がそれぞれの研究の流れを把握しながら、一方で長期的な視点から情報科学の数理的基礎理論の構築を目指して研究を行って行きたいと思っております。
これまで、私たちの専攻では計算機科学の基礎分野および自然現象・社会現象に対する数理モデルの構築と解析を通して、情報に関わる諸分野に関わる情報数理学の研究を行ってきました。アルゴリズム論、計算量理論、計算モデル解析論、論理的知識論の分野の研究、離散数学や数論などの代数学の研究とその符号理論あるいは暗号理論への応用、数理論理学や数学基礎論とその計算論への応用、数理モデルの構築と数値解析法の研究、確率解析や統計学の数理ファイナンス、情報理論、学習理論、遺伝子情報解析などへの応用の研究は現在の本専攻の中核をなすものであり、これらの研究を含め、より発展的に研究を展開していくことを目指しています。
教育面では、情報数理的思考力を身につけ、計算機及びそれを用いた情報処理システムの構築に中心的役割を果たせる高度情報技術者及び情報科学の数理科学的基礎分野の研究者を養成しています。
計算機数理科学専攻のウェブページ:http://www.cm.is.nagoya-u.ac.jp/
計算機数理科学専攻行事予定:
・2007年月9日(金):修士論文発表会
・2007年3月2日(金)15:00〜16:30(会場:情報科学研究科第一講義室)
三井斌友教授最終講義「数値解析これまで・これから---40年間を顧みて」
2007年3月に三井斌友教授が定年退職されます。三井先生は名古屋大学に赴任されてから、工学部、工学研究科、情報文化学部、人間情報学研究科、情報科学研究科などで研究教育に携わってこられました。また、数値解析分野の世界的権威として日本応用数理学会副会長、日本数学会理事、日本学術会議連携会員をはじめとして様々な学会活動、およびJournal of Computational and Applied Mathematics(Elsevier Science)の主任編集委員などを行って来られました。皆様、是非、先生の最終講義にご出席ください。