本研究プロジェクトについて
人間の祖先は600万年前に直立歩行を始めて移動能力を向上させました。それ以来、人類はアフリカから世界中に拡散し、離れた社会の間で交流を行い、移動のためのテクノロジーを発展させ、より流動性の高い社会を作り、そして現在では宇宙への旅や移住までも視野に入れています。人類の黎明から現在に至るまで、移動は常に人間にとって重要な意味を持っていました。しかし移動の様態、規模、目的、意義は多岐にわたっており、時代によっても変化していきます。そしてまた移動には様々な課題もあります。このプロジェクトでは、移動というものが人間にとってどのような価値をもち、それが将来においてどのように変わっていくのかを多角的な視点から考え、そして将来のモビリティーのあるべき姿を構想します。
「移動の価値とモビリティの未来」セミナー・シリーズ
本研究プロジェクトの一環として,様々な分野の専門家をお招きして移動に関連する研究や取り組みをご紹介いただくセミナーを開催します.
第9回(2021年3月18日)
第9回はALSなどの難病患者の介護をサポートする活動・事業をしている川口有美子先生(ALS/MNDサポートセンターさくら会)と、分身ロボット「OriHime」の開発者、「ロボットコミュニケーター」の吉藤健太朗先生(オリイ研究所)を講師にお招きします。
今回のセミナーは名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所主催セミナーシリーズ、「次世代モビリティ社会を考える夕べ」の一環として開催します。また名古屋大学大学院情報学研究科価値創造研究センター「ポジティブ情報学」プロジェクトとの共催です。また科研費基盤研究A「ポストトゥルースの時代における新しい情報リテラシーの学際的探求」(19H00518、代表:久木田水生)の助成を受けています。
- 日時:2021年3月18日14時から16時
- 会場:オンライン(Zoomウェビナー)
- 参加申し込み:https://fs219.xbit.jp/p739/form8/
- プログラム:
- 14:00- 趣旨説明
- 14:05- 川口有美子先生講演
- 14:50- 吉藤健太朗先生講演
- 15:35- 質疑応答とディスカッション
- 講演のタイトルと要旨
- 川口有美子:「難病者に学ぶ、人権としての「移動」− モビリティの可能性と公的制度」
昔むかし、難病者の人工呼吸器は「たんなる延命」のための装置であった。呼吸器は病院の壁や部屋に作り付けられていたり、鉄の箱に首だけ外に出して入る形式のものだったりしたので、呼吸器を付けられた難病者は、生涯「天井を見ているだけ」「いたずらに生かされている」とされた。そのようにして、難病者が医学モデルにおいて即座に「終末期」と位置付けられていた間は人工呼吸器の装着が控えられる傾向にあったのは当然と言えば当然であったのかもしれない。
それが、90年代に患者会や難病医療の研究者らが国に働きかけて人工呼吸器を保険適用にすると、在宅で呼吸器を利用して家族と年に数回外出する者もでてきた。2003年以降になると、「移動」を伴う介護が公的制度として障害者施策の中で提供されるようになり、人工呼吸器を載せる台付き車椅子も介護保険でレンタルできるようになった。こうして、日本の難病者は根治治療薬を待たずとも、全身性まひでありながら住む場所を選び、「移動」できるようになった。「寝たきり」のまま世界を飛び回っている強者もいる。
翻って、今、私たちはコロナ禍における「移動の自由」を模索しなければならない事態に陥っている。日本の難病者のトライアンフから、人権としての「移動」とコロナ禍のモビリティの可能性を展望してみたい。
- 吉藤健太朗:「サイボーグ時代の人生戦略 〜人から必要とされ続ける生き方?」
- 川口有美子:「難病者に学ぶ、人権としての「移動」− モビリティの可能性と公的制度」
第8回(2021年3月12日)
第8回は、テクノロジーと人間の融合によって身体を「自在化」するプロジェクトを推進している稲見昌彦先生(東京大学)と、人間と豊かに関わる人間型ロボットを創成する研究を行っている石黒浩先生(大阪大学)を講師にお招きします。
今回のセミナーは名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所主催セミナーシリーズ、「次世代モビリティ社会を考える夕べ」の一環として開催します。なお、本ウェビナーは、科学研究費補助金 挑戦的研究(開拓)「「クルマ」と「自動化するクルマ」に対する社会的受容の包括的理解に向けた学際研究」(20K20491、代表:谷口綾子)の支援を受けています。
- 日時:2021年3月12日16時から18時
- 会場:オンライン(Zoomウェビナー)
- 参加申し込み:https://fs219.xbit.jp/p739/form10/
- プログラム(暫定):
- 16:00- 趣旨説明(久木田水生)
- 16:05- 稲見昌彦先生講演
- 16:50- 石黒浩先生講演
- 17:35- 質疑応答とディスカッション
- 講演のタイトルと要旨
- 稲見昌彦:「自在化する身体」
現在のコロナ禍に伴うオンライン会議や講義において、身体性の欠如を嘆く声が相次いでいます。農業革命、工業革命など社会構造革命は身体観の革新を伴ってきました。情報革命を、実社会に対するバーチャル社会の確立と捉えるなら、我々はその社会構造変化に自由自在に適応可能な新たな身体像「自在化身体」を設計し、身体観を更新する必要があると考えます。本講演ではバーチャルリアリティやロボット工学、人間拡張工学を援用しつつ身体性を編集可能とするキーテクノロジ、自在化技術について議論し、超人スポーツなどその未来像を展望します。
- 石黒浩:「移動とアバター生活」
人間にとって移動は本質的に必要なものである。本講演では、まず移動の意味を議論し、その後に近い将来到来するアバター社会において、変化する人間の活動様式とその問題について議論する。
- 稲見昌彦:「自在化する身体」
第7回(2021年2月24日)
第7回は人工神経接続による機能再建の研究をしている東京都医学総合研究所の西村幸男先生、歩行アシストロボットHALを使ったリハビリを実践している新潟病院の中島孝先生を講師にお招きします。
今回のセミナーは名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所主催セミナーシリーズ、「次世代モビリティ社会を考える夕べ」の一環として開催します。
- 日時:2021年2月24日18時から20時
- 会場:オンライン(Zoomウェビナー)
- 参加申し込み:https://fs219.xbit.jp/p739/form1/
- プログラム(暫定):
- 18:00- 趣旨説明
- 18:05- 西村幸男先生講演
- 18:50- 中島孝先生講演
- 19:35- 質疑応答とディスカッション
- 講演のタイトルと要旨
- 西村幸男:「人工神経接続による脳機能再建」
脊髄損傷や脳梗塞などの神経損傷による四肢麻痺患者の願いは、"失った機能を取り戻したい"、それに尽きる。すなわち、自分の意思で自分の身体を思い通りに動かし、自分が何をしたかを感じ取れるように戻りたいのである。神経損傷による運動・体性感覚機能の消失は、大脳皮質と脊髄間を結ぶ神経経路が切断されてしまうことに起因するが、損傷の上位及び下位に位置する神経構造はその機能を失っているわけではない。本講演では、神経損傷後に残存した神経構造同士を、損傷領域を跨いでコンピューターインターフェイスを介して人工的に神経接続する"人工神経接続"により、失った四肢の随意制御の機能再建に成功した例を紹介する。人工神経接続は随意制御可能な生体信号(脳活動や筋活動)を記録し、それをリアルタイムに電気刺激へ変換し、物理的に離れた神経構造を電気刺激する、すなわち神経活動依存的電気刺激である。このパラダイムを用いて、麻痺した上肢の随意運動制御、知覚及び随意歩行機能の機能再建と機能再獲得による学習メカニズムについて議論する。
- 中島孝:「歩行運動学習装置としてのHAL医療用下肢タイプ開発における臨床戦略および実際」
歩行はバランス維持や安全に歩行するための機能なども含む高次脳機能を必要とする、人の随意的運動機能であるが、まず、下位の歩行運動中枢とその回復機構に関する議論が重要である。Barbeau (Brain Res 412: 84-95, 1987)らが、第13胸髄切断ネコでトレッドミル上で歩行訓練ができることを示した後、人の2足歩行の障害に対しても回復の可能性が示唆され、Wernig (Eur J Neurosci 7: 823-829, 1995)らにより脊髄損傷後のトレッドミルとハーネスによる運動療法が提唱された。Ram?n y Cajal(1928)は成人の中枢神経系は一度傷害されると再生しないと結論づけたため,多くの専門医は脊髄を含む中枢神経系の傷害後の真の機能回復については懐疑的であった。現代において中枢神経系の可塑性を促進するメカニズムは徐々に解明されてきたが、依然として困難な領域と考えられている。中枢神経系には自らの自己同一性を保つために、改変を抑制するメカニズムが備えられ、人の中枢神経可塑性、神経系学習は極めて制限されたものとなっているからである。
筑波大学の山海嘉之はサイバニクス(Cybernics)概念(Cybernics : fusion of human, machine and information systems. Tokyo: Springer; 2014.)を作りだし,装着型サイボーグ型ロボットHybrid Assistive Limb(HAL)を発明した。サイバニクスはサイバネティクスと異なり,デバイスと人の運動器(効果器)が一体となり,力学的および電気的に融合しようとする事により、効果器に対する装着者の運動意図をリアルタイムに逆解析し,装着者が意図した運動現象になるようにデバイスがアシストすると同時に、慣性モーメントや質量中心のずれを最少化しようとすることで,装着者は運動意図と運動現象のずれは自己固有受容器で知覚し、より正しい運動をしようとする。同時にデバイスのセンサーもそのずれを計測し,理想的運動パターンと運動現象のずれを補正する運動支援を行う。両者がずれを最小限にしようとすることで,装着者は最終的に運動学習ができると考えた。これは,【脳→脊髄→運動神経→筋骨格系→HAL】、【HAL→筋骨格系→感覚神経→脊髄→脳】という身体と HAL との間に起きるinteractive biofeedback(iBF)と呼ばれ,iBFはサイバニクスを使った神経可塑性の導入法、運動学習理論と言える。
我々のグループはこのiBFによる神経可塑性導入法を無作為化比較対照試験(Randomised controlled trial)NCY-3001試験(神経筋8疾患などのの運動単位病変に対する試験)とNCY-2001試験(痙性対麻痺などの運動単位より上位の病変に対する試験)で検証した(日本内科学会雑誌2018, 107(8), https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/8/107_1507/_article/-char/ja/)。脊髄運動ニューロンや筋繊維を障害する神経筋8疾患において、HAL装着した歩行運動療法により、対照療法と比較して2分間歩行距離が有意に改善することが示された。今までのマカクザルの皮質脊髄路の傷害実験で間接路が使える様になるなどの研究に加え、HALのエビデンスとその後の臨床実績で、歩行運動や神経可塑性の研究が促進されつつある。それらの臨床評価方法として非侵襲的なfMRI,fNIRS,DTI 等の手法もためされている。
希少性の神経筋疾患(脊髄性筋萎縮症や球脊髄性筋萎縮症)の運動機能改善のためには、アンチセンス核酸医薬などの疾患修飾薬とHALとの複合療法が重要であり、臨床事例を当日ビデオなどで紹介する。
- 西村幸男:「人工神経接続による脳機能再建」
第6回(2020年12月17日)
今回は認知神経生物学の入來篤史先生先生と、実験心理学者の鈴木光太郎先生をお招きして、講演をしていただきます。
今回のセミナーは名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所主催セミナーシリーズ、「次世代モビリティ社会を考える夕べ」の一環として開催します。
- 日時:2020年12月17日18時から20時
- 会場:オンライン(Zoomウェビナー)
- 参加申し込み:https://fs219.xbit.jp/p739/form1/
- プログラム(暫定):
- 18:00- 趣旨説明
- 18:05- 入來篤史先生講演
- 18:50- 鈴木光太郎先生講演
- 19:35- 質疑応答とディスカッション
- 講演のタイトルと要旨
- 入來篤史「移住するサル: 『三元ニッチ構築』の来し方 行く末」
生物は、種の棲息地の環境に「適応」して進化してきたので、地球環境が変化すれば元の環境条件の地域的な拡大や縮小に対応して、棲息地が「伸縮」することがある。しかし、元と異なる環境の地に「移住」することはない。別の環境に適応して変化すれば、もはや別の種に進化してしまう。しかし人類は、原棲息地のアフリカ熱帯地方を出て、異なる環境の地へと「移住」を繰り返し、今や地球上のほぼ全域を制覇し『人新世』を形作るに至った。人間に特異的な「知性」がこの特異な「移住」を可能にした、と考えられて来た。しかし、知性の諸要素の萌芽は他の多くの動物種にも見出され、周く用意されているかにみえる。なのに、人間にだけそれが発現したということは、人間型の「知性」は他の種の棲息には適応的でないので、その発現が抑えられてきたと考えられる。では、何故人間にだけそれが備わったのか?本講では、知性が移住を可能にした、という一方向的な因果関係ではなく、移住する棲息様式(異環境への適応)と知性の発現が相補的に適応共進化したという視点から、そのメカニズムとしての『三元ニッチ構築』仮説の、人類の大移住に果たした役割およびそれを未来に向かって外挿する可能性について考察する。
- 鈴木光太郎「進化心理学から見たヒトの移動能力」
600万年前、ヒトの祖先は樹上で生活を営み、その移動範囲は限られていた。その後、直立二足歩行をするようになって移動範囲も広がり、最終的にはアフリカを出て、地球上のあらゆる地域にその版図を拡大した。それを可能にしたのは、その身体能力、環境への適応能力、問題解決能力、空間認知能力、好奇心、予測力、協同力、移動をサポートする道具や動物、……である。本セミナーでは、ヒトの移動能力を「心」の進化の点から考えてみたい。
- 入來篤史「移住するサル: 『三元ニッチ構築』の来し方 行く末」
第5回(2020年11月16日)
今回は考古学者の西秋良宏先生と、松本直子先生をお招きして、講演をしていただきます。
今回のセミナーは名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所主催セミナーシリーズ、「次世代モビリティ社会を考える夕べ」の一環として開催します。
- 日時:2020年11月16日(月)18時から20時
- 会場:オンライン(Zoomウェビナー)
- 参加申し込み:https://fs219.xbit.jp/p739/form1/
- プログラム(暫定):
- 18:00- 趣旨説明
- 18:05- 西秋良宏先生講演
- 18:50- 松本直子先生講演
- 19:35- 質疑応答とディスカッション
- 講演のタイトルと要旨
- 西秋良宏「ホモ・サピエンスの拡散と旧人との交替」
我々ホモ・サピエンス(新人)の祖先集団は20万年以上も前のアフリカに誕生し、まもなく、ユーラシア大陸に足を踏み入れた。しかしながら、先住集団と交替しユーラシア各地に定着したのは約4万年前以降である。その間、彼らがどんな経験をしたのかは専門家ならずとも興味をそそられるところである。先史時代に起こったもう一つの大規模な集団交替劇としては、農耕民の拡散による狩猟採集民の減少が知られている。この講演では、この二つの交替劇を比較しながら、新人旧人交替劇の性質について考えてみる。
- 松本直子「フロンティアに挑む人類:出ユーラシアから見えてくること」
私たちホモ・サピエンスはアフリカを出てユーラシア大陸の各地に広がっていった。さらに、他種の人類がほとんど到達できなかったアメリカ大陸やオセアニアの島々にも移動した。アメリカ大陸へ移動するときには極寒の地を経由しなくてはならず、目視できない目的地へ航海する技術がなくてはポリネシアの島々へ渡ることはできない。リスクを冒してフロンティアに進出したのはなぜなのだろうか。ユーラシア大陸を出て、さまざまな環境で新たな文化・環境を作り出していった人々の営みは、すでに地理的なフロンティアが失われつつある現代の私たちが次にどこを目指すべきかについて示唆を与えてくれるだろうか。
- 西秋良宏「ホモ・サピエンスの拡散と旧人との交替」
第4回(2020年10月20日)
社会心理学者の唐沢かおり先生と、人工生命や科学技術と社会の問題について研究をされている佐倉統先生をお招きします。
今回のセミナーは名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所主催セミナーシリーズ、「次世代モビリティ社会を考える夕べ」の一環として開催します。
- 日時:2020年10月20日(火)18時から20時
- 会場:オンライン
- 参加申し込み:https://fs219.xbit.jp/p739/form1/
- プログラム(暫定):
- 18:00- 趣旨説明
- 18:05- 唐沢かおり先生講演
- 18:50- 佐倉統先生講演
- 19:35- 質疑応答とディスカッション
- 講演のタイトルと要旨
- 唐沢かおり 「自動運転に対する受容的態度とは」
自動運転の社会実装に向けて、様々な研究開発や社会実験のプロジェクトが、急ピッチで進められているなか、技術面のみならず、自動運転と人、社会との関係を論ずる重要性への認識が高まっている。その際の論点の一つが、自動運転の社会受容をめぐる問題である。自動運転という技術が社会の中でうまく機能し、期待される役割を果たすためには、人々がその存在を受容し、有益なものとして利用すること、すなわち、自動運転に対して「受容的な態度」を保持していることが重要だという認識がその背後にはあると考えられる。
では受容的な態度とはどのようなものなのだろうか。態度を、ポジティブ・ネガティブ両方の価値を持つ諸要因が混在した多次元的なものとしてとらえる社会心理学の立場からは、例えば「良いとおもう」「賛成である」というような単純な反応ではなく、諸要因のネットワーク的な関係から理解したうえで、受容という問題にアプローチする必要が示唆される。本トークでは、話題提供者らが行った、リスク・ベネフィット認知に焦点を当てた調査研究を紹介しながら、自動運転に対する態度構造の複雑さが「社会受容」を考える際にもたらす論点について議論を深めたい。
- 佐倉統「科学技術は誰のもの?──歴史を振り返って考える──」
新しい技術の実用化が近づくと、「その技術によって社会はどう変わるか?」に注目が集まるが、ここでいう「社会」とは何なのか? そもそも科学研究や技術開発は誰にとってのものなのか? 歴史を振り返って、その来し方行く末を考えるのがこの発表の目的である。科学技術の研究者・開発者が真っ先に想定していた利用者・受益者は、ざっくりまとめると、専制君主(17世紀)→専門家と公益(18?19世紀)→国民国家(20世紀)→民間企業(20世紀後半)と変わってきた。このような経緯を踏まえると、これからは「生活者のための科学」と「価値のための科学」が重要になってくると考える。その見通しと、その際に留意すべき点などを検討したい。
- 唐沢かおり 「自動運転に対する受容的態度とは」
第3回(2020年9月26日)
民俗学的な視点から車社会の問題について研究をされている中尾聡史先生と、宗教学・精神分析学などがご専門でアジールについての研究もされている舟木徹男先生をお招きします。(クローズドで行った第1回と同じ講演者を招いてオンラインで公開してやります)。
今回のセミナーは名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所主催セミナーシリーズ、「次世代モビリティ社会を考える夕べ」の一環として開催します。
- 日時:2020年9月26日(土)18時から20時
- 会場:オンライン
- 参加申し込み:こちらのフォームからお願いします。
- プログラム(暫定):
- 18:00- 趣旨説明
- 18:05- 中尾聡史先生講演
- 18:50- 舟木徹男先生講演
- 19:35- 質疑応答とディスカッション
- 講演のタイトルと要旨
- 中尾聡史「宮本常一の視点から道路交通の「あるべき姿」を考える」
近年、自動運転システムの開発が進み、その社会実装について、さかんに議論されている。自動運転システムは、日本の道路交通に大きな変化をもたらし得るものであり、その受容に際して、「道路はどうあるべきか?」「交通はどうあるべきか?」といった「あるべき姿」をめぐる検討が求められる。そこで、日本の道を生涯にわたって歩き続けた宮本常一の視点に着目しながら、日本の道路交通の近代を振り返り、これからの道路交通の「あるべき姿」について考える。
- 舟木徹男「アジールと網野善彦の現代的可能性」
アジールとは人間の心身を様々な脅威から庇護する場を意味し、ギリシア語で「不可侵」を意味する単語ασυλον(※)に由来する。今回の講演ではまず、アジールとその諸形態、およびその歴史的変遷を、O.ヘンスラ―のアジール論を参照して概説する。しかる後、渋沢敬三・宮本常一の民俗学の影響のもとで遍歴する非農業民の世界に着目して独自の日本中世史学を築いた網野善彦を参照することにより、アジール論を現在に接続する道筋を二つの視点から考察したい。一つは、網野がアジールの背後にあるものとして想定する人類史的な「無縁・無主」の原理を、西洋史における「自然法」の概念に近接したものとして理解し、それに基づく水平的な次元の「公共性」の領域の創出を、現代におけるあらたなアジールの一形態とみる視点である。いまひとつは、「無縁・無主」の原理と不可分の関係にある「移動」という主題に注目し、それが現代アジール論にとって持つ意味を、柄谷行人の近年の遊動性についての議論を参照しつつ考察する視点である。これらの議論を通じて、アジール論、移動の哲学、そしてモビリティの未来というテーマを接続する形で本プロジェクトに寄与したいと考えている。
※(ウェブページ管理人による註)「ασυλον」の「α」には無気息記号と鋭アクセント記号が付きます。(すみません、コピペできなかったので)
- 中尾聡史「宮本常一の視点から道路交通の「あるべき姿」を考える」
第2回(2020年8月5日)
宇宙物理学・天文学がご専門の磯部洋明先生(京都市立芸術大学)と、社会的ロボティクスがご専門の岡田美智男先生(豊橋技術科学大学)をお招きして、下記のようにセミナーを開催します。磯部先生には人類が宇宙へ行く意義について、岡田先生には人間とソーシャルなインタラクションをするエージェントとしての自動運転車について、お話をしていただく予定です。
今回のセミナーは名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所主催セミナーシリーズ、「次世代モビリティ社会を考える夕べ」の一環として開催します。
- 日時:2020年8月5日19:00-21:00
- 会場:オンライン
- プログラム(予定):
- 19:00-19:05 趣旨説明
- 19:05-19:50 磯部先生講演
- 19:50-20:35 岡田先生講演
- 20:35-21:00 ディスカッション、質疑応答
- 講演のタイトルと要旨
- 磯部洋明:「宇宙にエクソダス」
人間は様々な理由で移動するが、中でもとりわけ重要な理由の一つは「逃げる」ことだろう。だが、移動手段と通信手段の発達により人間にとって地球はどんどん狭くなり、画一化し、逃げ場が無くなってきている。現在起きているパンデミックが長期的に人間の活動にどのような影響を与えるかは早計に判断はできないが、少なくとも現時点では人々の移動を制限し、追跡・管理する方向への圧力が働いている。これは何とも息苦しい。
一方、気候変動、超巨大火山噴火、小惑星衝突など、中長期的に起きうる地表環境の激変は、数百万から数億といった数の人間の大規模な移動を我々に強いるかもしれない。これが目を背けたくなるような悲惨を生むであろうことは容易に想像できるだけでなく、シリアを始めとする難民・国内避難民にとっては今現実に起きている苦難である。重苦しい。
この息苦しく重苦しい地球から逃げることはできるだろうか?アポロ計画で人間が月に到達して以降、先進国の国家プロジェクトとしての有人宇宙探査は当初期待されていたようなペースでは進まなかったが、21世紀になり民間団体や新興国といった新しいプレイヤーが火星への移住計画を発表している。技術面やコスト面のハードルは依然として高いが、かつてはSFのネタでしかなかった地球外への移住は、わずかながらも現実的な可能性として議論されるようになってきた。それに伴い、人類の宇宙進出を倫理学、社会学、文化人類学など人文・社会科学の観点から分析する研究が近年盛んになってきている。本講演ではこれらの研究を紹介しつつ、宇宙の視点から人間の移動について考えてみたい。
- 岡田美智男:「クルマとドライバーとの幸せな関わり方を探る――〈弱いロボット〉たちとのインタラクションを手掛かりとして」
自動運転システムは、多様なセンサーからの情報に基づいてアクチュエータを自律的に制御しており、まさにロボットそのものといえるだろう。しかし、そうした得体の知れないロボットまかせにでの移動は、ドライバーを幸せにするものなのだろうか。わたしたちの研究グループでは、自動運転システムを 〈もうひとりの運転主体〉と捉えるような、〈ソーシャルなロボットとしての自動運転システム〉の可能性についての議論を進めてきた。本講演では、クルマや自動運転システムとわたしたちとの幸せな関わり方について、〈弱いロボット〉たちとのインタラクション様式を手掛かりに考えてみたい。
- 磯部洋明:「宇宙にエクソダス」
第1回(2020年3月26日2020年3月27日)←日程変更しました!
本セミナーは、コロナウィルスの流行を鑑みて、関係者のみの研究会とします。(2020年3月23日追記)
本セミナーは、コロナウィルスの流行を鑑みて、延期いたします。(2020年3月26日追記)
民俗学的な視点から車社会の問題について研究をされている中尾聡史先生と、宗教学・精神分析学などがご専門でアジールについての研究もされている舟木徹男先生をお招きします。
- 日時:
2020年3月26日(木)2020年3月27日(金)←日程変更しました! - 会場:名古屋大学NIC棟1階IDEA STOA(アクセス)
- プログラム(暫定):
- 14:30- 趣旨説明
- 14:40-16:10 中尾聡史先生講演と質疑応答
- 16:20-17:50 舟木徹男先生講演と質疑応答
- 講演のタイトルと要旨
- 中尾聡史「宮本常一の視点から道路交通の「あるべき姿」を考える」
近年、自動運転システムの開発が進み、その社会実装について、さかんに議論されている。自動運転システムは、日本の道路交通に大きな変化をもたらし得るものであり、その受容に際して、「道路はどうあるべきか?」「交通はどうあるべきか?」といった「あるべき姿」をめぐる検討が求められる。そこで、日本の道を生涯にわたって歩き続けた宮本常一の視点に着目しながら、日本の道路交通の近代を振り返り、これからの道路交通の「あるべき姿」について考える。
- 舟木徹男「アジールと網野善彦の現代的可能性」
アジールとは人間の心身を様々な脅威から庇護する場を意味し、ギリシア語で「不可侵」を意味する単語ασυλον(※)に由来する。今回の講演ではまず、アジールとその諸形態、およびその歴史的変遷を、O.ヘンスラ―のアジール論を参照して概説する。しかる後、渋沢敬三・宮本常一の民俗学の影響のもとで遍歴する非農業民の世界に着目して独自の日本中世史学を築いた網野善彦を参照することにより、アジール論を現在に接続する道筋を二つの視点から考察したい。一つは、網野がアジールの背後にあるものとして想定する人類史的な「無縁・無主」の原理を、西洋史における「自然法」の概念に近接したものとして理解し、それに基づく水平的な次元の「公共性」の領域の創出を、現代におけるあらたなアジールの一形態とみる視点である。いまひとつは、「無縁・無主」の原理と不可分の関係にある「移動」という主題に注目し、それが現代アジール論にとって持つ意味を、柄谷行人の近年の遊動性についての議論を参照しつつ考察する視点である。これらの議論を通じて、アジール論、移動の哲学、そしてモビリティの未来というテーマを接続する形で本プロジェクトに寄与したいと考えている。
※(ウェブページ管理人による註)「ασυλον」の「α」には無気息記号と鋭アクセント記号が付きます。(すみません、コピペできなかったので)
- 中尾聡史「宮本常一の視点から道路交通の「あるべき姿」を考える」
本研究プロジェクトは名古屋大学未来社会創造機構による未来社会創造プロジェクト「移動の価値とモビリティの未来」の助成を受けています。