本研究プロジェクトについて
インターネットが普及し始めた当時、人々はそれが「情報を民主化する」ことを期待しました。しかしインターネットはいまだにその期待に応えることができていません。多様な価値観を持った人々が、正しく偏りのない情報に基づいて、お互いの利害に配慮し、そして互いを人として尊重しながら議論ができることが健全な民主主義社会の基盤です。しかし現在、ネット上では、人々はフェイクニュースに踊らされ、フィルターバブルとエコーチェンバーの内側で偏った情報・意見に囲まれています。そして時に無思慮な加害的行動に走り、誹謗中傷をぶつけ合い、ヘイトスピーチをまき散らしています。
これらの問題に対する明らかな対策の一つは、人々の情報リテラシーを向上させることでしょう。ここで私たちは「情報リテラシー」あるいは単に「リテラシー」という言葉を、情報の価値を正しく評価し、そして自らも価値の高い情報を発信することができる能力を指すものとして使います。この意味でのリテラシーをすべての市民の中で高めることは、社会に流通する情報の質、情報コミュニケーションの質の向上をもたらすでしょう。そしてそのことは人々の倫理的な行動を促すことにつながるでしょう。こうして情報環境と人々の倫理的行動は相互に、循環的に影響を与えあって向上していくことが期待できます。
私たちは現代の社会においてリテラシーを持つことは、すべての市民の権利であり、また社会を健全に保つための義務であると考えます。そこですべての市民のリテラシーを向上させ、それによってインターネット上に流通する情報の質を高めることが本プロジェクトの目的です。
京都大学学際研究着想コンテストに参加したときのポンチ絵です。
イベント
本研究プロジェクトの一環として,様々な分野の専門家をお招きしてリテラシーに関連する研究や取り組みをご紹介いただくセミナーや研究会を開催します.
スマイリーキクチ先生、山口真一先生講演会
今回はネットでの中傷を受けた経験を持ち、『突然、僕は殺人犯にされた』(竹書房、2011年)の著者であるスマイリーキクチ先生と、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社、2020年)、『ソーシャルメディア解体全書 フェイクニュース・ネット炎上・情報の偏り』(勁草書房、2022年)など、ネット炎上などについての多くの著書を書かれている山口真一先生をお招きして、講演とパネルディスカッションを行ないます。
- 日時:2022年9月16日
(土)(金)15:00- - 会場:スマートニュース(渋谷区神宮前6-25-16 いちご神宮前ビル 2F)およびZoomウェビナー
- 参加申し込み:登録リンク(参加者を把握するため、会場にお越しの方も登録をお願いいたします)
- プログラム:
- 15:00 - スマイリーキクチ先生による講演と質疑応答
- 16:00 - 山口真一先生による講演と質疑応答
- 17:00 - パネルディスカッション
- タイトルと要旨:
- スマイリーキクチ「突然、僕は殺人犯にされた 〜言葉の責任 ネットの被害者・加害者にならないために〜」
- 山口真一「ソーシャルメディアにおける諸課題の実態と求められる社会的対処」
フェイクニュース、ネット炎上・誹謗中傷、情報の偏り、社会の分断――近年、様々な問題が大規模化している。ソーシャルメディアがもたらした、誰もが発信できる「人類総メディア時代」の課題について、データ分析結果から実態を示したうえで、適切な社会的対処を検討する。
- パネルディスカッションでの討論者(予定):
- 村上祐子
- 笹原和俊
- 大澤博隆
- 唐沢穣
- 中村登志哉
- 平和博
- 司会:久木田水生
- 問い合わせ先:久木田水生 minao.kukita@gmail.com
- 講演者プロフィール
- スマイリーキクチ:1972年生まれ、東京都足立区出身。1993年、お笑いコンビ『ナイトシフト』を結成。1994年、コンビ解散後、1人で活動。1999年、身に覚えのない殺人事件の犯人だとネット上にデマを書き込まれ、10年間に渡り誹謗中傷や脅迫を受ける。2011年にその戦いの記録を綴った著書『突然、僕は殺人犯にされたーネット中傷被害を受けた10年間』を発刊。現在はネットの誹謗中傷の経験をもとに風評被害の実態やSNSの危険性、トラブル対処法などを全国で講演。一般社団法人インターネット・ヒューマンライツ協会代表。
- 山口真一:1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。2020年より現職。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報経済論、情報社会のビジネス等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。KDDI Foundation Award貢献賞、組織学会高宮賞、情報通信学会論文賞(2回)、電気通信普及財団賞、紀伊國屋じんぶん大賞を受賞。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)などがある。他に、東京大学客員連携研究員、早稲田大学ビジネススクール兼任講師、株式会社エコノミクスデザインシニアエコノミスト、日経新聞Think!エキスパート、日本リスクコミュニケーション協会理事、シエンプレ株式会社顧問、総務省・厚労省の検討会委員などを務める。
本講演会はJSPS科研費JP19H00518「ポストトゥルースの時代における新しい情報リテラシーの学際的探求」(代表:久木田水生)、戦略的創造研究推進事業(CREST)「信頼されるAIシステムを支える基盤技術」領域、「知識と推論に基づいて言語で説明できるAIシステム」(代表:乾健太郎)、ムーンショット型研究開発事業JP-MJMS2011「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」(代表:石黒浩)の助成を受けています。
三井誠先生講演会
『ルポ 人は科学が苦手――アメリカ「科学不信」の現場から』を上梓された三井誠先生をお呼びして、アメリカでの科学不信の実態をご報告いただき、なぜ多くの人が科学的に明らかにされた事実を受け入れないのかについて議論をしたいと思います。
- 日時:2021年10月30日(土)14:00-
- 会場:Zoomウェビナー
- 参加申し込み:https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_b5g1GTg8TXqTpoOVLSV73g
- プログラム:
- 14:00 - 三井誠先生による講演と質疑応答
- 15:30 - パネルディスカッション
- 講演のタイトル:「人は科学が苦手なのか」
- 要旨:
2017年に地球温暖化を疑う大統領を生んだ米国。その首都ワシントンを拠点に大統領選挙の現場などを取材しながら、「人々はいかに科学を受け止めているのか」について思いを巡らせました。その取材成果をまとめたのが、拙著「ルポ 人は科学が苦手――アメリカ『科学不信』の現場から」(光文社新書)です。
懐疑派大統領を生んだ背景には、「人が現代科学に適応できていない」という側面があるように思えました。科学者が期待するように、一般の人々は科学を「ありがたがって」受け止めるわけではありません。分野によっては、知識が増えるほど、理解しあえなくなることもあるようです。コロナ禍でも、科学が苦手な人の一面が感染抑止の妨げになっているようにも思えます。そんな現実の一方で、データや事実にこだわる科学者の発想を転換し、人々の気持ちに着目した科学コミュニケーションが米国で広まっていました。 - 三井先生プロフィール:三井誠(みついまこと) 読売新聞東京本社英字新聞部次長
1994年、京都大学理学部卒業。読売新聞東京本社に入社後、科学部で生命科学や環境問題、科学技術政策などの取材を担当。2013〜14年、米カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院客員研究員(フルブライト奨学生)。15〜18年、米ワシントン特派員として大統領選挙や科学コミュニケーションなどを取材した。近著『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)で「科学ジャーナリスト賞2020」を受賞。2020年から慶應義塾大学大学院理工学研究科非常勤講師、21年から日本科学技術ジャーナリスト会議理事も務める。 - パネルディスカッションでの討論者(予定):
- 田中優子
- 菊池聡
- 藤原広臨
- 唐沢穣
- 中村登志哉
- 平和博
- 村上祐子
- 戸田山和久
- 司会:久木田水生
- 問い合わせ先:久木田水生 minao.kukita@i.nagoya-u.ac.jp
本講演会はJSPS科研費JP19H00518「ポストトゥルースの時代における新しい情報リテラシーの学際的探求」(代表:久木田水生)、戦略的創造研究推進事業(CREST)「信頼されるAIシステムを支える基盤技術」領域、「知識と推論に基づいて言語で説明できるAIシステム」(代表:乾健太郎)の助成を受けています。
菊池聡先生講演会
認知心理学者で、特に疑似科学や超常現象等に関わる人間の心理や認知をご専門に研究をされている菊池聡先生をお招きしてご講演をして頂きます。ご講演の後はパネルディスカッションを行ないます。パネルディスカッションにはジャーナリストの三井誠先生、認知科学者の田中優子先生、メディア研究者の平和博先生、中村登志哉先生、計算社会科学者の笹原和俊先生、社会心理学者の唐沢穣先生にご登壇頂きます。
- 日時:2021年6月4日(金)14:00-
- 会場:Zoomウェビナー
- 参加申し込み:https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_f0gQSo_sTaSQUgxTgE7i_Q
- プログラム:
- 14:00 - 菊池聡先生による講演と質疑応答
- 15:30 - パネルディスカッション
- 講演のタイトル:「なぜニセ科学を信じてしまうのか 〜疑似科学にだまされないための心理学〜」
- 要旨:
「疑似科学」や「ニセ科学」は、科学的な根拠があるように主張されますが、実際には科学としての要件を満たしていません。こうした疑似科学を無批判に信じてしまうことは、ちょっとした失敗ですまずに、広く医療や健康、教育、ひいては政策決定などでも社会的な問題を引き起こしています。疑似科学を信じる原因として、しばしば科学知識の不足や科学教育の問題が指摘されますが、心理学の諸研究からは、こうした信念の背景には人が環境に適応する上で身につけた自然な心理メカニズムがあると考えられています。こうした心理学の研究成果を紹介し、疑似科学と付き合っていく上でのクリティカル・シンキング(批判的思考)について考えます。 - パネルディスカッションの討論者:
- 田中優子
- 三井誠
- 笹原和俊
- 唐沢穣
- 中村登志哉
- 平和博
- 司会:久木田水生
- 問い合わせ先:久木田水生 minao.kukita@i.nagoya-u.ac.jp
本講演会はJSPS科研費JP19H00518「ポストトゥルースの時代における新しい情報リテラシーの学際的探求」(代表:久木田水生)、戦略的創造研究推進事業(CREST)「信頼されるAIシステムを支える基盤技術」領域、「知識と推論に基づいて言語で説明できるAIシステム」(代表:乾健太郎)の助成を受けています。
三井誠先生講演会(2020年3月8日、桜美林大学) 延期します
昨年、『ルポ 人は科学が苦手――アメリカ「科学不信」の現場から』を上梓された三井誠先生をお呼びして、アメリカでの科学不信の実態をご報告いただき、なぜ多くの人が科学的に明らかにされた事実を受け入れないのかについて議論をしたいと思います。
講演会に続いて、本プロジェクトのメンバーによる活動報告と、今後の活動について打ち合わせをします。メンバー以外の方でもご自由に参加していただけます。色々なご意見をいただければ嬉しく思います。
- 日時:
2020年3月8日(日)13:00-延期します - 会場:桜美林大学新宿キャンパス本館 J212教室(アクセス)
- プログラム:
- 13:00 - 三井誠先生による講演とディスカッション
- 15:00 - メンバーによる今年度の活動報告
- 16:30 - 今後の活動について打ち合わせ
- 講演のタイトル:「人は科学が苦手なのか」
- 要旨:
地球温暖化を疑う大統領を生んだ米国。その首都ワシントンを拠点に大統領選挙の現場などを取材しながら、「人々はいかに科学を受け止めているのか」について思いを巡らせました。その取材成果をまとめたのが、拙著「ルポ 人は科学が苦手――アメリカ『科学不信』の現場から」(光文社新書)です。
懐疑派大統領を生んだ背景には、「人が現代科学に適応できていない」という側面があるように思えました。科学者が期待するように、一般の人々は科学を「ありがたがって」受け止めるわけではありません。米国では今も、4分の3の人が「神のおかげで人類は誕生した」と考え、地球温暖化への懐疑論が根強い現実もあります。そんな現実の一方で、データや事実にこだわる科学者の発想を転換し、人々の気持ちに着目した科学コミュニケーションが広まっていました。
ところで、科学はそれほど信頼に足るものなのでしょうか。そんなことも議論してみたいと思います。
- プロフィール:京都大理学部卒。読売新聞東京本社科学部次長。1999年から科学部で生命科学や環境問題などの取材を担当。2013-2014年、カリフォルニア大バークレー校客員研究員。2015-2018年、ワシントン支局で大統領選挙や科学コミュニケーションを取材した。
シンポジウム「フェイクニュースとどう向き合うか」(2019年3月31日、立教大学)
こちらのページをご覧ください。
本研究プロジェクトはJSPS科研費JP19H00518「ポストトゥルースの時代における新しい情報リテラシーの学際的探求」の助成を受けています.